平成29年度(2017) 成果報告1
海外大学との連携と人材育成
世界的に知られる優れた演劇関連の研究機関との連携に より海外への発信力の強化と若手人材の育成を進める「海 外大学との連携と人材育成」事業では、2 つの国際シンポ ジウムの開催と若手研究者の育成事業を行った。
英国における国際シンポジウム「蜷川マクベスをめぐって」と公開研究会の開催
昨年から続くバーミンガム大学付属シェイクスピア研究所との協力関係を強化すべく、10月にロンドンで蜷川幸雄追悼公演「NINAGAWA・マクベス」が行われるのを機に、蜷川シェイクスピアをめぐり講演会と国際シンポジウムをイギリスで開催した。まずバーミンガム大学附属シェイクスピア研究所で開催された講演会(10月5日)では、児玉竜一副館長の講演「『蜷川マクベス』と日本の古典演劇」および山口宏子氏(朝日新聞記者)の講演「蜷川幸雄」のなかで、歌舞伎化されたシェイクスピア作品、蜷川マクベスにおける歌舞伎や女形の問題、劇場の内外を繋ぐような蜷川演出の特徴をめぐる考察が示された。講演の後には80 名を超える参加者を交えて活発な質疑応答が行われた。
次いで在英国日本国大使館で開催された国際シンポジム「蜷川シェイクスピアをめぐって」(10月6日)では約100 名の聴衆を集め、日英の専門家を交えて複数の視点から議論を行った。第1部「蜷川幸雄の功績を振り返って」では、シェイクスピア研究を牽引するマイケル・ドブソン氏(シェイクスピア研究所所長)、英国演劇界を代表する劇評家のマイケル・ビリントン氏、気鋭の演出家フィリップ・ブリーン氏、若手研究者のロザリンド・フィールディング氏(バーミンガム大学大学院)が登壇した。各登壇者の実体験に基づいた様々な対話が行われ、日本の演劇に対するイメージを刷新したという1985 年の「NINAGAWAマクベス」英国公演時の話題から、蜷川作品のもつ東西を繋ぐ折衷性、また古典と現代性の両方を踏まえた蜷川シェイクスピアの特徴まで、様々な観点から英国での蜷川受容をめぐって議論が交わされた。
続いて本拠点の柴田康太郎研究助手による「演劇博物館とシェイクスピア」において、演劇博物館とシェイクスピアの関係や関連資料の紹介がなされ、さらに第2部「歌舞伎女形とシェイクスピア」では、「NINAGAWAマクベス」で2015年の再演時より魔女を演じている歌舞伎女形の中村京蔵氏を招き、児玉副館長を聞き手として、厳しい蜷川演出の現場の逸話から蜷川演出を継承することの意義や可能性まで多岐にわたる対話が行われた。
なお、英国滞在中は東洋アフリカ研究学院(SOAS)、グローブ座等の在英の様々な研究機関・文化機関と意見交換
を行い、今後の連携の大きな足がかりを作ることができた。
在英国日本国大使館登壇者
国際シンポジウム「世界を駆け抜けた舞踊家 伊藤道郎―記憶・資料・研究」の開催
11月11日には、昨年度の本拠点の事業成果である「伊藤道郎関連資料データベース」の公開を記念し、国際シンポジウム「世界を駆け抜けた舞踊家 伊藤道郎―記憶・資料・研究」(小野記念講堂)を開催した。戦前にイギリス、アメリカで活躍し、戦後には日本で目覚ましい活動を行った伊藤道郎の多岐にわたる活動をめぐって、弟子・遺族・研究者が多角的な視点から討議を行った。
第1部「伊藤道郎の資料と記憶」ではまず、柴田康太郎は「演劇博物館の伊藤道郎関連資料データベース」において、本事業の紹介とデータベース化の意義について発表した。次いで伊藤道郎の義姪・伊藤慶子氏と直弟子の井村恭子氏による「伊藤道郎の生涯とメソッド」では、伊藤氏より遺族所蔵の写真スライドを使った伊藤道郎の生涯の紹介がなされ、次いで井村氏より直弟子の故古荘妙子らの映像を交えて伊藤道郎のメソッド「テン・ジェスチャ」、及びこれを応用した伊藤作品が紹介され、独特のメソッドをもつ伊藤作品の特徴が指摘された。こうした日本国内での伊藤作品の継承の紹介に次いで、伊藤道郎実孫のミシェル・イトウ氏による「伊藤道雄の遺産を保存すること」においては、アメリカでの伊藤作品の継承状況が報告され、長らくアメリカで活躍した伊藤の記憶が同地で継承・更新されていることが明らかにされた。
第2部「伊藤道郎研究の現在」では、日米の伊藤道郎研究者による最新の知見が発表された。武石みどり氏(東京音楽大学)の発表「舞踊家伊藤道郎の出発点―ロンドンからニューヨークへ」では、ロンドンとニューヨークという2 都市それぞれでの固有の受容の文脈を踏まえた伊藤の活動のあり方が明らかにされた。柳下惠美氏(早稲田大学)の「伊藤道郎の国際的芸術活動―東西文化の架け橋を目指して」では、アメリカと日本での伊藤道郎の国際的な活動が多面的に検証された。さらにメリー・ジーン・コウウェル氏(セントルイス・ワシントン大学)の発表「現代のダンス界における伊藤道郎とその作品の継続的意義」では、アメリカのダンス界や舞踊教育のなかで伊藤道郎のダンスメソッドが今なお保持する現代的意義が指摘された。
これまで資料不足からも研究が進まずにきた伊藤道郎をめぐり、本シンポジウムでは極めて多角的な議論がなされた。このシンポジウムを通して、「伊藤道郎関連資料データベース」のような一次資料のデジタル化とその公開が伊藤道郎研究に更なる多元的な視点をもたらすこと、またこれをもとにして国内外の研究者が議論を交わすことが、同分野の研究を国際的に活性化する可能性が示唆された。
質疑応答の様子
若手研究者海外派遣事業
本年度も全国から若手研究者を広く公募し海外での研究 発表を促がす事業を進め、Dance Studies Association設立 大会で研究発表を行う北原まり子氏(早稲田大学文学研究 科/パリ第八大学舞踊研究コース)に旅費を助成した。
【報告: 北原まり子】
2017年10月19日( 木)~ 22
日(日)にオハイオ州立大学で開かれた国際研究大会
「Transmissions and Traces: Rendering Dance」に参加し、
研究発表「ミハイル・フォーキンが最初にイザドラ・ダンカ
ンの踊りをみたのはいつか―歴史的未解決問題の再検討」
を行った。アメリカ拠点の二大舞踊学会SDHSとCORDが
Dance Studies Associationに統合された記念回で、世界
各地より500 名近い参加者があった。また、ニューヨーク
公立図書館にて、フォーキンの晩年に撮られた作品映像を
中心に調査を行った。
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