拠点構築の目的
学外演劇研究者・演劇研究諸機関との演劇及び映像をテーマとする共同研究を行い、COEプログラムなどの研究プロジェクトによって蓄積されつつある研究資産のよりいっそうの社会還元と有効活用をはかり、開放的で互恵的な研究交流を目指すものである。
研究背景
演劇学映像学のいずれもが、人文科学研究領域においては、比較的若い分野で、これらの研究が本格化するのは全世界的にも1945年以降である。しかしながらわが国においては、すでに演劇博物館の創立者であった坪内逍遙博士が明治大正期より演劇の歴史的文学的研究と比較演劇研究の必要性を標榜していた。映像学では、映画技術自体の成立が20世紀になってからであるが、写し絵のような映像技術はわが国では江戸時代から発達しており、西欧から映画が流入した時も速やかにこれを受け入れたことにより、映像研究の伝統も欧米に引けを取らない歴史がある。
研究資源の蓄積
このような研究の趨勢を背景に、本拠点においては、平成14年度21世紀COEプログラム・平成19年度グローバルCOEプログラムに採択され、これまでの7年間で膨大な研究資源を蓄積しつつある。とくにグローバルCOEプログラムにおいては、各事業参加者が収集した資料の提出とデータベース化を念頭に置いて、資料収集出張を行うなどの措置を講じており、放置すれば個人収集のデータとして散逸してしまい、拠点には成果報告のみが残るという結果に陥ることを防いでいる。こうして収集された研究資源は、現在は拠点内の事業推進担当者・研究協力者・研究員(博士課程学生・ポスドク)らの200余名が利用するのみで、多くは博士課程学生の学位取得準備のための研究資材としてのみ用いられている。しかしながら、21世紀COEプログラムで蓄積された研究資源はもちろん、進行中のグローバルCOEプログラムでの研究資源についても、出来る限りはそれらをより広く公開し、またそれらを利用した二次的研究が展開されるべきである。現在グローバルCOEプログラムでは、人材育成に事業の焦点を絞った結果、学外に対して新たな研究プロジェクトを提案することは、予算的にも不可能な状態にある。一方で21世紀COEプログラムの成果の余慶として、学外からしばしば共同研究の申し入れが、少なからずある。そこで学外研究者・研究機関との連携を主体とする新たな研究チームを組織すべく、本研究事業を行うものである。
個人研究から共同研究へ
演劇映像学連携研究拠点が運用されるようになれば、グローバルCOEプログラムによる人材育成と、本事業による連携研究とが、演劇博物館の活動の両輪として機能することになる。これによりCOEプログラムの成果の社会還元がまったく達成されると共に、演劇映像研究が世界的レベルでより大きく飛躍発展することになる。現在演劇博物館は、わが国を代表する演劇研究拠点として、国内外からの研究者が数多く参集し、所蔵資料の調査を行ってはいるが、いずれも個人的な研究であって、個々には価値があるものの、人文科学を大きく進展させるような、大きな学問にはなり得ていない。すなわちこうした研究では、どうしても専門性の高い、理解されにくい研究になりがちである。いきおい社会還元のされにくい、独善的な研究となるおそれが生じやすい。しかしながらこれらを共通テーマごとに統合すれば、大規模かつ効率的な研究が可能になるのであり、ひいては人文科学が真に科学として機能することになるのである。研究成果の社会還元にも十分に留意した研究ともなろう。このような効果を目指して、本拠点を構築するものである。