平成29年度

共同研究活動の報告


テーマ研究課題 1
坪内逍遙・坪内士行資料の基礎的調査研究


2017年10月27日、本研究チームは坪内逍遙・士行関係の未公開資料の調査・研究の成果報告会を開催した。水田佳穂氏の発表「坪内士行と新劇―宝塚国民座をめぐって」は、大阪を拠点とした大正年間の士行の新劇活動を辿り、宝塚国民座(大正15 年~昭和5 年)の興行史を提示した。柳澤和子氏の発表「逍遙宛小泉八雲書簡について」は、初公開を含む逍遙宛八雲英文書簡5通と八雲宛逍遙書簡を対照させて「逍遙日記」を分析し、約半年間の逍遙八雲の親密な交流を再現した。松山薫氏の発表「書簡に見る逍遙と画家との交流」は、逍遙の出版や上演に関わった画家の中から鏑木清方、和田英作、八木淳一郎の未公開逍遙宛書簡を紹介し、各人と逍遙の関係を明らかにするとともに、逍遙の業績中での絵画の果たした役割を論じた。小島智章氏の発表「御霊文楽座の逍遙―大正十一年近松二百年祭大阪行」は、逍遙日記、三田村鳶魚日記、新聞記事等で逍遙の大阪訪問時の動向を辿り、既存の逍遙書誌未収録の観劇談を紹介して逍遙と文楽・義太夫節との関わりについて考察した。発表後には児玉竜一副館長から各発表への意見が示され、議論が深められた。

 
左:研究会チラシ、右:柳澤和子氏による発表


公募研究課題 1
楽譜資料の調査を中心とした無声期の映画館と音楽の研究


本研究チームは、本年度特に多くの催しを行い、シンポジウム「映画音楽とコンピュータ・テクノロジー」(4月29日、東京藝術大学)、若手研究者発表会「1920年代の映画館楽士と楽譜」(7月15日、おもちゃ映画ミュージアム)、研究会「映画説明レコード分析」(9月11日、拠点会議室)、公開研究会「無声期の映画館における和洋合奏―楽譜資料「ヒラノ・コレクション」とSPレコード」(1月13日、小野記念講堂)を開催した。

1月の公開研究会では、シンポジウムと和洋合奏付で無声映画『忠次旅日記』の参考上映を併せて行なった。第1部のシンポジウムでは、まず柴田康太郎の発表「時代劇伴奏における折衷性」、白井史人の発表「ヒラノ・コレクションからみる場面別表現と邦楽器」、紙屋牧子の発表「無声期日本映画の「尖端」と映画館における語り・音楽」が行われた。次いで活動写真弁士の片岡一郎による『忠次旅日記』に関するSPレコードの音源紹介、邦楽演奏家の堅田喜三代による音源中の邦楽にかんする解説がなされ、最後にアーロン・ジェロー教授のコメントにより、各発表が映画史研究のより広い文脈のなかで捉え直され、この研究会の意義が再解釈された。第2部では、第1部での分析を踏まえた『忠次旅日記』の参考上映がなされた。演劇博物館所蔵の無声映画の楽譜資料「ヒラノ・コレクション」から採られた楽曲が和洋合奏によって演奏されるとともに、SPレコードに聞かれた鳴物の実践が併せて実現された。SPレコードの参照や伝統的な邦楽の型を組み合わせる試みによって、この楽譜の再現演奏と上映のあり方において新たな可能性が開拓された。

 
左:研究会チラシ(2018.1.13)、右:シンポジウム風景(白井氏、柴田氏、紙屋氏、片岡氏、堅田氏、ジェロー氏)


公募研究課題 2
演劇博物館所蔵の映画館資料に関する複合的カタロギング


2017年11月12日に神戸映画資料館においてシンポジウム「映画館研究の現状と将来―過去の映画館をどう論じるのか」を開催した。まず研究代表者の上田学氏が開催趣旨および共同研究概要を紹介した。続く第一部「映画館に関する歴史的研究の方法」では上田が司会を務め、研究分担者の仁井田千絵氏が発表「東京の映画館にみられる近代性―関東大震災から日劇開場まで」を、同じく近藤和都氏が発表「「戦ふ映画館」―戦時下日本の上映環境をめぐって」を行い、映画館興行に関する詳細な歴史研究を提示した。さらに第二部「神戸の映画館に関する研究の現状」では、研究分担者の板倉史明准氏が司会を担当し、田中晋平氏が発表「「神戸映画館マップ」の作成状況と課題」を、吉原大志氏が発表「トーキー移行期の神戸新開地における映画館の労働と争議」を行い、神戸という一都市における映画館に関して考察がなされた。最後に行われたパネル・ディスカッション「映画研究における映画館とは何か」では、これまでの登壇者に加えて研究分担者のスザンネ・シェアマン氏、同じくローランド・ドメーニグ氏、研究協力者のチョン・ジョンファ氏が登壇し、来場者も交えて多岐にわたる議論が行われた。

 
左:研究会チラシ、右:上田学氏による発表


公募研究課題 3
視覚文化史における幻燈の位置:明治・大正期における幻燈スライドと諸視 覚文化のインターメディアルな影響関係にかんする研究


2017年12月17日に早稲田大学文化構想学部表象メディア論系との共催で、国際シンポジウム「日本のスクリーン・プラクティス再考―視覚文化史における写し絵・錦影絵・幻燈文化」を開催した。前半は開催趣旨説明に続き、まず大久保遼・向後恵里子、遠藤みゆき、上田学の各氏が演劇博物館所蔵の写し絵・幻燈資料に基づく研究成果や今後の方向性を報告した。次に草原真知子氏の基調報告「日本の幻燈文化の再検討」では多彩な資料を交えて幻燈と同時代の様々な視覚文化とのメディア横断的な関係が詳述された。最後にエルキ・フータモ氏の基調報告「Screenology-Toward a MediaArchaeology of Projected Image」では氏の提唱する「スクリーン学Screenology」の解説と今後の構想報告がなされた。後半では、劇団みんわ座の山形文雄氏の解説と写し絵「だるま夜話」「葛の葉」の上演、池田光恵氏の解説と錦影絵池田組による「花輪車」の上演が行なわれた。最後にフータモ氏、草原氏が加わり、パネル・ディスカッション「日本のスクリーン・プラクティス」が行なわれ、西欧の映像文化と比較した際の写し絵や錦影絵の特徴、失われた過去の映像文化を現在において振り返る意義、スクリーン学やメディア考古学的視点の可能性が議論され、来場者との質疑応答も活発に行われた。

 
左:研究会チラシ、右:研究会風景(左より 山形氏、池田氏、フータモ氏、草原氏)


公募研究課題 4
中華民国期の伝統演劇資料から見る劇場と劇種に関する研究


本研究チームは1年という短い研究期間にもかかわらず丹念に調査を進め、中国現代演劇研究会の第14回研究会では、研究代表者の鈴木直子氏が当館所蔵の民国期の番付資料の紹介と天津の遊芸場に関する報告を行った。研究会では当館所蔵の大判ポスターについても紹介がなされ、用途や製作目的についての意見交換を通して、これが他機関にも見られない資料であることが確認された。議論のなかでは、番付の目録作成時に他機関との連携が取りやすいかたちについても助言が提示された。


研究会チラシ