共同研究

平成27年度研究課題リスト

テーマ研究課題

寺山修司の創作:一次資料から明らかにする活動実態

公募研究課題

  1. 坪内逍遙・坪内士行資料の基礎的調査研究
  2. 無声映画の上演形態、特に伴奏音楽に関する資料研究
  3. プロジェクション・メディアの考古学:幻燈資料の整理・公開とデジタルデータを活用した展示・創作
  4. 千田是也と同時代演劇:千田資料に関する調査・研究

テーマ研究課題
寺山修司の創作:一次資料から明らかにする活動実態


代表者

塚原史(早稲田大学法学学術院教授)

研究分担者

岡室美奈子(早稲田大学文学学術院教授)
梅山いつき(早稲田大学演劇博物館助教)

課題概要

本研究は寺山修司の創作について、演劇博物館が所蔵している関連資料と、寺山の秘書を長年務めておられた田中未知氏が所蔵する資料をもとに明らかにしようとするものである。現在、当館に寄託されている田中氏所蔵の資料の中には、創作の一端を垣間みることのできるメモや創作過程で参考にしたと思われる資料が多く含まれており、本研究ではそうした資料の考証を通して、寺山の創作の源泉となったであろう思想的背景や交友関係を明らかにすることを目的としている。

成果報告の概要

本年は演劇博物館が所蔵する寺山関連資料を調査対象とした。法作家時代(1960年代)の作品は多くが出版されていない。現在、寺山研究において劇団旗揚げ以前のこの時代が注目されているため、今後の寺山研究を発展させるためにも、本年は当館が所蔵する台本のデジタル化を進めた。

撮影ではラジオとテレビ台本を優先したが、演劇やその他の台本も予算内で撮影することができた。以下にその一部の作品名をあげる。以下の多くは寺山の作品年表に含まれていないため、今後、昨年までの調査で進めていた新聞記事の整理をもとに、放送日を確定し、内容の交渉作業に取り組みたい。同時に、台本の利活用の方法についても日本脚本アーカイヴズ推進コンソーシアムや国会図書館等関連期間の協力を得ながら検討し、最適な方法で公開できるようつとめたい。

<ラジオ台本>*一部
・ラジオ・ホール「家族あわせ」(共同脚本・山本諭)
・海外ラジオドラマ特集第4夜 1963年度イタリア賞受賞作品「調べ室の少年たち」
・昭和37年度芸術祭放送部門参加 ラジオのためのファルス「卵物語」 <第一稿>
・〔立体音楽堂〕 ミュージカル「湖水の鐘」 <第一稿> (鈴木三重吉童話集による)
・イタリア賞参加候補 ステレオによる叙事詩 「黙示録」 セリフ収録用台本
・ジャズと詩によるラジオのための実験 「蹴球学」 Foot ballogy
・昭和42年度芸術祭ラジオ部門参加 ラジオのための叙事詩「九州鈴慕」
・第十五回芸術放送部門参加作品 ラジオによる叙事詩の試み「血の夏」
・POETICAL DRAMA FOR CHILD「星に全部話した」
・東京ガスラジオ劇場 BIRTH OF JAPANESE DRAMATIC DOCUMENT「もう呼ぶな、海よ」

<テレビ台本>*一部
・二十三回 芸術祭参加 東芝日曜劇場「子守唄由来」
・夢のドキュメンタリー−心のシリーズ−「飛びたい LET MAKE EVERYONE FLY!」
・日立ファミリーステージ 大江健三郎原作 「孤独な青年の休暇」(改訂版)
・第十九回芸術祭参加作品 「海へ行きたい」
・テレビドラマ 女の園 「影の店」
・短い短い物語 第31回「かわいそうなお父さん お父さんを殺したのは あの殺し屋ではなくて一羽の鳥のうたう唄だ」(決定稿)
・カネボウ木田プレゼント実験劇場 「隣人の条件または首物語」(準備稿)
・短い短い物語 第58回 テレビリリック「首」 (決定稿)
・愛の劇場 「宿題」 (第一稿)
・毎日放送15周年記念番組 怒涛日本史 第6回「楠木正成」

『家族あわせ』(1961年放送)
Kazoku Awase (Family Together), broadcast in 1961


公募研究課題
1. 坪内逍遙・坪内士行資料の基礎的調査研究


研究代表者(所属)

濱口久仁子(立教大学異文化コミュニケーション部兼任講師)

研究分担者(所属)

菊池明(演劇博物館招聘研究員)
松山薫(早稲田大学専任職員)
柳澤和子(早稲田大学教育総合科学学術院非常勤講師)
水田佳穂(演劇博物館招聘研究員)
小島智章(武蔵野大学非常勤講師)

課題概要

坪内逍遙資料については、逍遙宛て書簡を中心とした未公開資料の調査、目録作成を行ない、順次、考証・翻刻作業を進める。坪内士行資料については、館蔵資料の全貌を調査したうえで、今後の資料公開へ向けた整理、目録作成を行う。

研究成果の概要

坪内逍遙資料(坪内逍遙宛書簡)
今年度も未整理書簡の整理及び仮目録作成作業を進め、外国人を除く約400名分の逍遙宛書簡の仮目録を作成し、そのうち52名433通のデジタル撮影を行った(1月6日現在)。また書簡の翻刻は、逍遙宛會津八一書簡128通の年代考証と翻刻を完了した。逍遙と八一の往復書簡は既に「坪内逍遙・會津八一往復書簡」(1968)として刊行されているが、今回の翻刻はすべて新出書簡である。八一の書簡は長文が多く、逍遙に率直に真情を吐露しており、今まで不明であった部分を補うことができる貴重な資料である。逍遙・八一の和歌や俳句も記載され、美しい絵入りのはがきも多く含まれている。今年度は前半80通を「演劇研究」39号に掲載(菊池・松山・柳澤・濱口「〈坪内逍遙宛諸家書簡1〉坪内逍遙宛會津八一書簡(1)」)する(後半は次年度の予定)。

□坪内士行資料
20箱のうち5箱を開封し、3箱分を整理した。写真約1千点と、書簡約1千8百通がこれに当たる。ともに仮目録を作成し、写真はデジタル化を済ませた。これまで資料の存在が知られていなかった為に顧みられることの少なかった、関西在住の早稲田の卒業生に支えられて主宰した戯曲研究会、芸術協会、小林一三に任されて責任者を務めた宝塚国民座といった、大正昭和初期の士行の新劇活動が明らかになり、また彼を守り立てんとする周囲の様子を窺うことができる。たとえば、大正8年に一三が企てた男子養成すなわち宝塚新劇団とは、士行にとってまぼろしの宝塚文芸協会であったといえよう。これについては平成27年度歌舞伎学会秋季大会二日目(12月13日於学士会館)にて研究発表(水田「坪内士行と宝塚男子選科」)を行った。

宝塚国民座、大阪第一回公演、大正15年11月27日、於朝日会館、「大いに笑う淀君」
Takarazuka Popular Theater [Takarazuka Kokumin-za], first performance in Osaka, November 27, 1926, at Asahi Hall, Ōi ni Warau Yodogimi (Laughing Yodogimi in hysteric)
1925.8.25 1923.10.22 1925.8.5 1925.8.23 1925.8.31-1 1925.8.31-2
坪内逍遙宛會津八一書簡
Letters from Aizu Yaichi to Tsubouchi Shoyo
1925.8.25
1923.10.22 1925.8.5 1925.8.23 1925.8.31


公募研究課題
2. 無声映画の上演形態、特に伴奏音楽に関する資料研究


研究代表者

長木誠司(東京大学大学院総合文化研究科教授)

研究分担者

紙屋牧子(東京国立近代美術館フィルムセンター客員研究員)
白井史人(東京医科歯科大学教養部非常勤講師) 
柴田康太郎(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)
山上揚平(東京藝術大学音楽学部非常勤講師)

課題概要

無声映画関連資料(映写機、楽譜など)を対象とし、大正~昭和初期の映画上演の実践を、特に楽譜資料の分析を通じて明らかにすることが本研究の目的である。
演劇博物館所蔵の無声映画伴奏に関する資料をデータベース化した上で、使用楽器、旋法、和声などの音楽面の特徴を分析する。さらに、他館所蔵の楽譜資料や、活弁台本、雑誌記事などの文献資料、上映館、機材に関する資料と比較・検討し、映像との組み合わせを再構成する。上映や音源作成による成果公開を目指している。

研究成果の概要

本研究は、演劇博物館所蔵の無声映画の伴奏譜を対象とする。本資料は1920年代の半ばから1930年代初頭にかけて作成された楽譜資料である。日活直営の品川娯楽館を中心とした映画館所蔵の楽譜と、1920年代に娯楽館などの日活直営館で活動していた楽士・平野行一(1898~没年不詳)という人物が所蔵・使用していた資料が大部分であることが分かった(2014年度調査結果)。この「ヒラノ・コレクション」を主たる調査対象とし、大正から昭和初期にかけての映画の伴奏音楽の実践を、特に楽譜資料の分析を通じて明らかにすることが本研究の目的であった。

研究成果の概要は以下の3点にまとめられる。

 

1.楽譜資料の時代考証・内容分析
コレクション内の楽譜は少なくとも1924年頃からトーキー初期の1933年頃にかけて収集・使用されたことが分かった。まとまって所蔵されていた国内出版曲集『Small Orchestra』などのうち、使用頻度が低く未整理のままであったパート譜の目録化と照合を進めた(400点程度)。その結果、映画館の規模に合わせた楽器編成の取捨選択、手書きによる楽譜(特に三味線など)の追加や、パート譜の体系的な収集・管理が行われていたことが明らかとなった。

2.同時代の文献調査・他の楽譜資料との関連
『東京演芸通信』などの同時代の文献資料の収集・調査を進め、同時代の楽士の活動や映画館興行のなかでの伴奏音楽・奏楽の機能を検討した。また、佐々紅華遺稿(埼玉県寄居町)、松平信博遺稿(愛知県豊田市・松平郷)内の楽譜をコレクションの楽譜と比較検討し、日活の依頼のもとで彼らが作曲した邦画用伴奏曲が各直営館へ浸透していく過程が示唆された。

3.作品別の楽譜資料の検討と参考上映
本コレクション内に保存されていた特定の作品のために作成された楽譜は、楽士の手稿による選曲譜「ヒラノ選曲譜」(31作品+無題断片)と、製作会社が簡易印刷し発行した「日活配給選曲譜」(12作品+断片)に大別される。このうち『軍神橘中佐』日活配給選曲譜(計8曲、アメリカ発行曲集からの転用や軍歌を含む)と、『忠臣蔵』ヒラノ選曲譜(計9曲、邦楽古典曲と松平信博作曲による楽曲1曲)を用いて参考上映を行った。楽曲の出典調査などを行い、演奏家の協力のもと楽器編成・楽曲の反復回数・場面との組み合わせを選択した。製作当時の楽譜を用いた再現の試みとして一定の成果が上がったが、楽譜の使用法や弁士の説明との関連や、通作された欧米の伴奏譜の活用との相違などの課題も明らかとなった。更なる活用法を検討したい。

Figure 1 Chushingura Figure 2 gunshin tachibana chusa

「ヒラノ選曲譜」『忠臣蔵』(池田富保監督、日活配給選曲譜、1926年、「K. HIRANO」署名入り五線紙使用、手稿)
Compiled Score Handwritten by Hirano for Chushingura (1926, directed by Tomiyasu Ikeda; music papers bearing the printed signature of K. Hirano)

「日活配給選曲譜」『軍神橘中佐』(三枝源次郎)監督、ヒラノ選曲譜、1926年、編曲:松平信博、所蔵印:神奈川演芸館、簡易印刷)左:表紙、右:ピアノ譜
Compiled Score Distributed by Nikkatsu for Lieutenant Colonel Tachibana, the War God [gunshin tachibana chūsa] (1926, directed by Genjiro Saegusa, compiled by Nobuhiro Matsudaira; ownership mark: Kanagawa Engeikan; simple print form; left: binding; right: piano part)


公募研究課題
3. プロジェクション・メディアの考古学:幻燈資料の整理・公開とデジタルデータを活用した展示・創作


研究代表者(所属)

大久保遼(東京藝術大学社会連携センター特任助手)

研究分担者(所属)

草原真知子(早稲田大学文化構想学部教授)
向後恵里子(明星大学人文学部准教授)
上田学(日本学術振興会特別研究員PD)
遠藤みゆき(東京都写真美術館学芸員)

課題概要

演劇博物館には、映画以前に存在したプロジェクション・メディアである写し絵、幻燈の貴重なスライドが数多く収蔵されており、その題材も多岐にわたる。今回の共同研究では、所蔵されている幻燈スライドの体系的な整理を行い、今まで詳細が不明だったスライドの年代や題材の特定を進める。またこうした調査に加え、その成果を展示や図録、データベースなどによって公開・共有し、その価値や新しい表現の可能性を探ることを目指す。

研究成果の概要

2015年4月から8月に開催された「幻燈展:プロジェクション・メディアの考古学」および、『幻燈スライドの博物誌:プロジェクション・メディアの考古学』(青弓社、2015年)の刊行を通じて、(1)幻燈の販売目録とスライドの対照の必要性、(2)幻燈と同時代の他の視覚文化との連関の解明、以上の2点が今後の課題であることが明らかになった。

(1)については、演劇博物館に所蔵されている販売目録と、館蔵のスライドに関連する草原真知子氏所蔵の販売目録のデジタル化を進めた。また館蔵資料のうち海外のスライドに関しては、Magic Lanternの代表的なデータベースであるLUCERNAの情報との比較を行った。これにより、例えば「画家と楽士」「写真家と子供」と記録されていた館蔵スライドはともにイギリスのTheobald & CO.により1905年に制作されたものであることが判明した。販売目録やデータベースとの対照により新たに明らかになった情報は、随時演劇博物館の幻燈データベースに追加登録する予定である。

(2)については、まず11月20日に遠藤みゆき氏による報告「中島待乳の幻燈制作」が行われ、写真家でもあった待乳の幻燈制作や、画学生だった秋尾園がスライドの下絵を描いていたことが明らかにされ、幻燈と写真や版画、油絵といった視覚文化との連関が指摘された。また1月12日にはエルキ・フータモ氏による報告「スクリーン・プラクティス:メディア考古学的視点から」が行われ、幻燈が映像だけでなく音楽やパフォーマンスを伴っていたこと、その観点からすると、同時代のムービング・パノラマにおける口上や「Bänkelsang」と呼ばれるブロードサイド・バラッドの絵解きなどの大衆文化と関連しているとの指摘がなされた。

Lantern Slide by Matsuchi Nakajima Bänkelsang
中島待乳の幻燈スライド(演劇博物館所蔵)
Lantern Slide by Matsuchi Nakajima

ブロードサイド・バラッドの絵解き
Bänkelsang





公募研究課題
4. 千田是也と同時代演劇:千田資料に関する調査・研究


研究代表者(所属)

阿部由香子(共立女子大学文芸学部教授)

研究分担者(所属)

宮本啓子(白百合女子大学国語国文学科非常勤講師)
寺田詩麻(聖学院大学人文学部非常勤講師)
秋葉裕一(早稲田大学創造理工学部教授)

課題概要

千田コレクションは、演劇人千田是也(1904-1994)が制作したファイル、スクラップブック、アルバムと関連の台本、蔵書等で構成される。〈築地小劇場〉にはじまり、〈劇団俳優座〉、〈ブレヒトの会〉に到る莫大な資料は二十世紀日本の演劇研究にとって貴重である。本共同研究の課題は、その未整理資料の考証、研究である。またその研究の基礎となる一九二〇から五〇年代のアルバム写真の考証、デジタル化も併せて行なう。

研究成果の概要

1)伊藤道郎関連資料のデジタル化
 演劇博物館の貴重な千田是也コレクションの中から、ほんの一部分にすぎないが、仮整理の段階で「J」に分類されている伊藤道郎関連の資料の内容を把握し、整理、デジタル撮影を進めた。「J資料」は仮整理の段階で、写真アルバム、スクラップブック、直筆原稿、著作資料、書簡類、プログラム・パンフレット類、手帳・サブノート、などのように形態による分類がされているものと、アーニーパイル劇場関連、オリンピック関連、ファッション関連、パシフィック映画関連、南洋パルプ関連、のように資料内容によって分類されているものがある。
 今回、2年間にわたる研究期間でデジタル撮影したものは以下の通りである。

   ①写真アルバム27冊分(J1、J2、J3、J4、J5、H31)
   ②アーニーパイル関連資料(J23)
   ③書簡類(J28)

写真、書簡類については、ある程度定型の形態である資料が多いが、J28の「アーニーパイル関連資料」は、直筆原稿、スケッチメモ、劇場内文書、プログラムなど雑多な形態の多様な資料群である。これらを印刷冊子と直筆資料を分けるような既存の資料分類に従ってバラバラに整理保存してしまうと、資料の有機的なつながりが断たれてしまう可能性がある。しかし、資料内容に従った番号付けとデジタル撮影を最初に行うことで、今後は画像データベースとして展開していくことが可能になったといえよう。
 また、写真資料については伊藤道郎のプライベート写真、渡欧後の交友関係や足跡をたどる手がかりとなる資料、舞踊家としての仕事、演出家・振付家としての仕事を検証するための資料など横断的に閲覧することが可能になった。

2)伊藤道郎関連資料の重要性
今回、デジタル化した資料は、伊藤道郎の国内外での仕事をより具体的に検証するための手がかりとなりうるに違いない。特に1930年代以降、アメリカでの活躍を示す資料とともに、1941年~43年の収容所生活を送っていた時期の書簡、1946年にアーニーパイル劇場の芸術顧問として迎えられた後にそれまでの集大成のような舞台を生み出していく制作資料など、後半生の仕事を評価する際に意味を持つものが多く存在する。それは同時に1930年代~40年代の日本の舞台芸能を捉えなおす上でも有意義な資料であるといえよう。

Jungle Drum Rhapsody in Blue Draft of Tabasco Note of Tabasco

『ジャングルドラム』舞台写真
Photograph of Jungle Drum

『ラプソディーインブルー』舞台写真
Photograph of Rhapsody in Blue
Note of Tabasco

『タバスコ』メモ
Draft of Tabasco

『タバスコ』原稿
Note of Tabasco