共同研究
平成26年度研究課題リスト
テーマ研究課題
公募研究課題
- 坪内逍遙・坪内士行資料の基礎的調査研究
- 無声映画の上演形態、特に伴奏音楽に関する資料研究
- プロジェクション・メディアの考古学:幻燈資料の整理・公開とデジタルデータを活用した展示・創作
- 千田是也と同時代演劇:千田資料に関する調査・研究
テーマ研究課題
寺山修司の創作:一次資料から明らかにする活動実態
代表者
塚原史(早稲田大学法学学術院教授)
研究分担者
岡室美奈子(早稲田大学文学学術院教授)
梅山いつき(早稲田大学演劇博物館助教)
課題概要
本研究は寺山修司の創作について、演劇博物館が所蔵している関連資料と、寺山の秘書を長年務めておられた田中未知氏が所蔵する資料をもとに明らかにしようとするものである。現在、当館に寄託されている田中氏所蔵の資料の中には、創作の一端を垣間みることのできるメモや創作過程で参考にしたと思われる資料が多く含まれており、本研究ではそうした資料の考証を通して、寺山の創作の源泉となったであろう思想的背景や交友関係を明らかにすることを目的としている。
成果報告の概要
①資料のデジタル撮影
・写真アルバム
18冊のアルバムに収められている紙焼き写真のデジタル撮影を行った。アルバムは田中氏によってまとめられたもので、「1968年頃」や、「1970年NYラ・ママ」、「競馬関係」、「演劇関係」といったタイトルが付けられており、年代や仕事分野別でまとめられているが、内容の詳細は未調査である。1冊あたり約50枚収められており、今後は画像ファイルを研究チームで共有し、研究会を定期的に開催して考証作業を進めていきたい。
・スクラップブック
寄託資料に含まれるスクラップブックは寺山自身が作成したものや、劇団関係者が作成したもの、田中氏が作成したものを合わせて100冊近くある。大半が田中氏によって整理済みであることから、おおまかな内容については特定ができているが、収められている記事一点一点まで把握できていない。今回は1960年代半ばから70年代初頭にかけて寺山自身が作成したスクラップブックを調査対象とした。この時期の寺山は文学の分野だけでなく放送作家としても活躍し、テレビの構成やラジオ台本を手がける一方で、演劇実験室・天井桟敷を旗揚げし、話題を集めていた。スクラップブックにはそうした活動を取り上げた雑誌・新聞記事や、雑誌への投稿エッセイ、対談がくまなく収められている。今後は画像データを用いて記事リストを作成する予定である。
②蔵書リストの作成
書籍約1,300 冊のリスト化作業を行った。これらの書籍は寺山の蔵書であり、中には学生時代に愛読したと思われる書籍や、外国書籍も多く含まれ、一部は入手が難しい貴重書もある。分野は多岐に及び寺山の関心の広さを伺い知れる。今回の調査では書誌情報として著者名、書名、出版社名、出版年をひかえてリストを作成した。公募研究課題
1. 坪内逍遙・坪内士行資料の基礎的調査研究
研究代表者(所属)
濱口久仁子(立教大学異文化コミュニケーション部兼任講師)
研究分担者(所属)
菊池明(演劇博物館招聘研究員)
松山薫(早稲田大学専任職員)
柳澤和子(早稲田大学教育総合科学学術院非常勤講師)
水田佳穂(演劇博物館招聘研究員)
小島智章(武蔵野大学非常勤講師)
課題概要
坪内逍遙資料については、逍遙宛て書簡を中心とした未公開資料の調査、目録作成を行ない、順次、考証・翻刻作業を進める。坪内士行資料については、館蔵資料の全貌を調査したうえで、今後の資料公開へ向けた整理、目録作成を行う。
研究成果の概要
坪内逍遙資料(坪内逍遙宛書簡)今年度も未整理書簡の整理及び仮目録作成作業を進め、外国人を除く約400名分の逍遙宛書簡の仮目録を作成し、そのうち52名433通のデジタル撮影を行った(1月6日現在)。また書簡の翻刻は、逍遙宛會津八一書簡128通の年代考証と翻刻を完了した。逍遙と八一の往復書簡は既に「坪内逍遙・會津八一往復書簡」(1968)として刊行されているが、今回の翻刻はすべて新出書簡である。八一の書簡は長文が多く、逍遙に率直に真情を吐露しており、今まで不明であった部分を補うことができる貴重な資料である。逍遙・八一の和歌や俳句も記載され、美しい絵入りのはがきも多く含まれている。今年度は前半80通を「演劇研究」39号に掲載(菊池・松山・柳澤・濱口「〈坪内逍遙宛諸家書簡1〉坪内逍遙宛會津八一書簡(1)」)する(後半は次年度の予定)。
坪内士行資料
20箱のうち5箱を開封し、3箱分を整理した。写真約1千点と、書簡約1千8百通がこれに当たる。ともに仮目録を作成し、写真はデジタル化を済ませた。これまで資料の存在が知られていなかった為に顧みられることの少なかった、関西在住の早稲田の卒業生に支えられて主宰した戯曲研究会、芸術協会、小林一三に任されて責任者を務めた宝塚国民座といった、大正昭和初期の士行の新劇活動が明らかになり、また彼を守り立てんとする周囲の様子を窺うことができる。たとえば、大正8年に一三が企てた男子養成すなわち宝塚新劇団とは、士行にとってまぼろしの宝塚文芸協会であったといえよう。これについては平成27年度歌舞伎学会秋季大会二日目(12月13日於学士会館)にて研究発表(水田「坪内士行と宝塚男子選科」)を行った。
1930年4月宝塚大劇場短期公演チラシ |
坪内逍遙あて市島春城書簡(1926年7月26日) |
公募研究課題
2. 無声映画の上演形態、特に伴奏音楽に関する資料研究
研究代表者
長木誠司(東京大学大学院総合文化研究科教授)
研究分担者
紙屋牧子(東京国立近代美術館フィルムセンター客員研究員)
白井史人(東京医科歯科大学教養部非常勤講師)
柴田康太郎(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)
山上揚平(東京藝術大学音楽学部非常勤講師)
課題概要
無声映画関連資料(映写機、楽譜など)を対象とし、大正~昭和初期の映画上演の実践を、特に楽譜資料の分析を通じて明らかにすることが本研究の目的である。 演劇博物館所蔵の無声映画伴奏に関する資料をデータベース化した上で、使用楽器、旋法、和声などの音楽面の特徴を分析する。さらに、他館所蔵の楽譜資料や、活弁台本、雑誌記事などの文献資料、上映館、機材に関する資料と比較・検討し、映像との組み合わせを再構成する。上映や音源作成による成果公開を目指している。
研究成果の概要
演劇博物館所蔵の無声映画の伴奏に使用された楽譜資料を対象とし、大正~昭和初期の映画上演の実践を、特に音楽面に着目して明らかにすることが本研究の目的である。2014年11~12月にかけて所蔵資料の番号付け・OPP袋への仕分けを行った。さらに、京都文化博物館、神戸映画資料館での調査・研究者との情報交換(2014年12月26日~29日)を経て、研究成果中間報告会(2015年2月4日)を行い、本資料の意義と活用の可能性を検討した。
研究分担者・白井、紙屋、研究協力者・柴田康太郎を中心とした調査で、資料の概要が明らかとなった。当資料は、1920年代の半ばから1930年代初頭にかけて、無声映画の伴奏に用いられた一まとまりの楽譜コレクションである。署名と所蔵印から、品川の日活直営の「娯楽館」が所蔵していた伴奏音楽用パート譜であり、平野行一(別名はキンレイか)という人物が主に使用していたと考えられる。本年度は、800点を超す全資料のナンバリングを終え、以下の主要曲集の仮目録を作成した。
- 無題(仮名称:ヒラノ伴奏曲ライブラリー)の手稿伴奏曲集、パート譜、110点程度(HIRANO KINREIという印入り)…仮資料番号A-3、A-4、B-4
- 「Kino Music 日活楽譜」、未出版の伴奏曲集、パート譜、34点…仮資料番号B-8
- 「Small Orchestra」、国内出版の伴奏曲集、パート譜、25点(東京スモール・オーケストラ楽譜会、1924年)…仮資料番号B-3
- 「Cinema Inc. Series」「Berg’s Inc. Series」、アメリカ出版の伴奏曲集、パート譜、113点、(Belwin社、1910年代後半~1920年代前半に出版)…仮資料番号A-5
- 特定の映画への選曲(仮名称:ヒラノ選曲譜)、パート譜、64点(K.HIRANOという署名入り五線紙)…仮資料番号A-1
- 日活からの配給譜、パート譜、20点…仮資料番号 B-1
主要資料館の専門家との面談によれば、当時の使用譜がまとまって発見されたのは国内初である。各曲集の内容に関して分析を開始した結果、佐々紅華、松平信博ら、当時の言説で言及される作曲家の実作も多く含まれていることが分かった。さらに、当時のアメリカで使用されていた主要曲集の一つも含まれており、海外の実践との繋がりが明らかとなってきた。また、既存資料では欠けていたピアノパートなどの伴奏部分の分析を通して、和声面での和洋折衷的特徴や楽器編成の検討を行った。
「無題手稿伴奏曲集」より |
「Kino music日活楽譜」より 「K. Sassa Music No.12」 |
公募研究課題
3. プロジェクション・メディアの考古学:幻燈資料の整理・公開とデジタルデータを活用した展示・創作
研究代表者(所属)
大久保遼(東京藝術大学社会連携センター特任助手)
研究分担者(所属)
草原真知子(早稲田大学文化構想学部教授)
向後恵里子(明星大学人文学部准教授)
上田学(日本学術振興会特別研究員PD)
遠藤みゆき(東京都写真美術館学芸員)
課題概要
演劇博物館に所蔵されている写し絵、幻燈資料の閲覧を行い、まずは資料体の概要と保存状態を把握することからはじめた。また共同研究チームで草原真知子氏所蔵の幻燈コレクション、販売目録等の関連資料を閲覧し、演劇博物館所蔵のスライドと販売目録を照合することで、年代や題材の特定が進むとの見通しを得た。また投影装置の修復や復原を行っていく必要があることも明らかになり、今年度は劇団みんわ座と協力して、写し絵の投影装置と、演劇博物館所蔵の写し絵種板(「小栗判官一代記」)の一部を、デジタルデータをもとに復元を行った。今回の作業をもとに、今後本格的な投影装置と種板の復元を行い、デジタルデータに基づいた写し絵の復元上映会を行う予定である。
・館蔵スライドカタログ
館蔵スライドのなかから、350点ほどを厳選し、「写し絵」「幻燈(教育)」「幻燈(娯楽)」「マジック・ランタン」に分類し、構成を行った。現在、画像の選定とレイアウト、共同研究チームと外部の有識者による解説の執筆がほぼ完了し、最終的な校正段階である。今年度の共同研究の大きな成果の一つである館蔵スライドカタログ(演劇博物館編『幻燈スライドの博物誌――プロジェクション・メディアの考古学』)は3月中に青弓社より刊行予定
・幻燈データベース
資料調査やスライドカタログを編集する過程で得られたデータを、演劇博物館幻燈データベース(URL: http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/epkgentou/)に追加する作業を現在行っている。今年度中に確定した情報を追加した上で、データベースの更新を行い、館蔵スライドの全画像データを公開する予定である。今後、写し絵の画像データや販売目録のデータを統合していくことを検討している。
・企画展示
資料調査と館蔵資料のデジタル化等の成果を踏まえた企画展示が4月1日より演劇博物館で予定されている。今年度は展示に向けて、出品資料の選定、展示解説の作成を行った。またデザインチームによってメインビジュアルと特設webの作成が行われた。展示レイアウトの基本方針もほぼ固まり、東京藝大、IAMAS、SFC、UCLA出身のディレクター、作家の協力を得て、幻燈のプロジェクターの機構やスライドのデジタルデータを使用した作品制作も進められている。
河童が釣れた Fishing for kappa (water imps) |
竜巻 Tornados |
ハムレットとオフィーリア Hamlet and Ophelia |
二枚舌 Duplicity |
写真家と子供 Photographer and child |
福助 Fukusuke (a large-headed dwarf statue, bringer of good luck) |
勧進帳 Subscription book |
公募研究課題
4. 千田是也と同時代演劇:千田資料に関する調査・研究
研究代表者(所属)
阿部由香子(共立女子大学文芸学部教授)
研究分担者(所属)
宮本啓子(白百合女子大学国語国文学科非常勤講師)
寺田詩麻(聖学院大学人文学部非常勤講師)
秋葉裕一(早稲田大学創造理工学部教授)
課題概要
千田コレクションは、演劇人千田是也(1904-1994)が制作したファイル、スクラップブック、アルバムと関連の台本、蔵書等で構成される。〈築地小劇場〉にはじまり、〈劇団俳優座〉、〈ブレヒトの会〉に到る莫大な資料は二十世紀日本の演劇研究にとって貴重である。本共同研究の課題は、その未整理資料の考証、研究である。またその研究の基礎となる一九二〇から五〇年代のアルバム写真の考証、デジタル化も併せて行なう。
研究成果の概要
まず、当初の計画では千田資料のうち最も古い1920年代~30年代の写真のデジタル化と考証を進める予定であったが、研究期間、予算、資料劣化の状況などを考慮し、伊藤道郎関連の「J資料」を取り上げることに変更した。その上でまず「J資料」のうち伊藤道郎関連の写真アルバムJ1-01~20、J2-01~03、J5、H31の計25冊の撮影と目録作成を進めた。撮影とデジタル化は委託し、仮目録のデータ入力は研究分担者が行った。
目録作成に際しては写真の裏書、アルバムのキャプションなどの文字データも入力し、現在検証を進めている段階である。内容は伊藤道郎のプライベートな写真、ヨーロッパ、アメリカ、日本における国際的な活動の記録写真、具体的な代表作の舞台写真など多岐にわたる。画像データベース化することで様々な研究領域における基礎資料となり得ると考える。
また、並行して「J資料」の中でも伊藤道郎が1945年~1950年前後に深くかかわった「アーニー・パイル劇場」についての資料に着目し、その整理を進めた。現時点では、内容の大まかな確認にとどまっているが、劇場の内部資料や上演資料、また作品制作のメモ、台本の類が含まれおり、これまで明らかではなかった「アーニー・パイル劇場」の様相が少しずつ判明してきている。占領期の劇場がどのように運営されていたかという内部機構や興行システムについて、また、伊藤道郎が作り出したレビューやオペラ作品の内容について、そして、占領期の日本の演劇をとりまく様々な状況についてなど、今後検討していきたい問題が見出されたところである。
アーニーパイルのダンシングチーム The Ernie Pyle dance troupe |
アーニーパイルの踊り子たちをレッスンする伊藤道郎
Michio gives a lesson to the Ernie Pyle’s dancers |
伊藤道郎演出のアーニーパイル劇場公演「タバスコ」(1947) Michio dances to“ Prelude” by the Alexander Scriabin |
スクリャービン作曲『プレリュード』を踊る伊藤道郎 Photograph of Michio Ito performing on the stage of the Ernie Pyle Theatre |