2025(令和7)年度

奨励研究課題

2025(令和7)年度共同研究課題一覧

※( )内は研究代表者
テーマ研究
  1. 久保栄資料の調査研究(阿部由香子)
  2. 倉林誠一郎旧蔵資料を中心とする戦後新劇の調査研究(後藤隆基)
  3. 映画関連資料を活用した戦前期の映画興行に関する研究(岡田秀則)
  4. タイニイアリス小劇場関連資料の体系的整理に関する研究(金潤貞)
  5. 前田直資料の調査研究(斎藤慶子)
公募研究
  1. 岡本綺堂旧蔵資料に関する基礎的研究(横山泰子)
  2. 日記から考える歌舞伎役者を中心にした江戸中期の文芸圏研究(BJÖRK, Tove Johanna)
  3. GHQ占領期における地域演劇の実証的研究――九州地区を中心に(小川史)
  4. 田邊孝治氏旧蔵講談資料の研究(今岡謙太郎)
  5. 常磐津節正本板元坂川屋が遺した印刷在庫の概要調査(竹内有一)
  6. 小沢昭一旧蔵資料にみる「日本芸能史」構想についての調査研究――芸能史叙述と「芸」「性」「差別」(鈴木聖子)
奨励研究
  1. 小山内薫関係資料の調査研究(熊谷知子)
  2. 「沖縄もの」演劇の系譜に関する研究——社会的背景および他ジャンルの物語作品を参照して(近藤つぐみ)
  3. 演劇博物館所蔵中国演芸貴重資料の目録作成(継続)(李家橋)
  4. 植民地期の朝鮮映画と新派的感性――日本映画との比較を通して(具珉婀)


奨励研究課題

小山内薫関係資料の調査研究

代表者

熊谷知子

課題概要

演出家・劇作家・小説家として明治後期から昭和初期にかけて活躍した小山内薫(1881~1928)は、自由劇場(1909~1919)や築地小劇場(1924~1929)をはじめとした新劇運動のほか、歌舞伎座や明治座といった大劇場における商業演劇でも多くの仕事を手掛けた、日本演劇においてきわめて重要な人物である。しかし、小山内薫に関する一次資料を用いた研究はその知名度に反していまだ十分とは言えない。本研究では、小山内薫の演劇活動と交友関係に新たな視点を付与することを目指し、昨年度に引き続き演劇博物館が所蔵する書簡や絵葉書を調査・整理することに加え、演劇博物館未収蔵の小山内薫関係資料の購入およびその活用を検討する。


奨励研究課題

「沖縄もの」演劇の系譜に関する研究——社会的背景および他ジャンルの物語作品を参照して

代表者

近藤つぐみ

課題概要

本研究は、申請者の企画により開催した演劇博物館 2025 年度春季企画展「演劇は戦争体験を語り得るのか——戦後 80 年の日本の演劇から——」に継続して、同展第 5 章で取り上げた沖縄戦・沖縄の歴史を題材とする演劇についてさらなる調査を進めるものである。その目的は、「沖縄もの」演劇にみられる作品構造上の特徴と、沖縄という土地の構造の連関を明らかにすることにある。例として、知念正真『人類館』(1976)では標準語とウチナーグチ、ウチナーヤマトグチが「内地」と沖縄、そして沖縄内部の支配・被支配の構造を表すのに用いられる。兼島拓也『ライカムで待っとく』(2022)の入れ子構造は、人びとが沖縄を物語化するとき、捨象したものがあること自体を忘れ去るという二重の忘却に目を向けさせる。このように、沖縄を題材とする演劇作品の構造と沖縄の社会的背景は不可分であることが同展で明らかになった。同時に、①こうした劇構造と社会構造の連関を分析するために、社会学などの他分野の研究を参照する必要があること、②漫画やテレビドラマ、ラジオドラマなどの他の表現形式の物語作品も視野に入れる必要があることが課題として浮上した。①、②の調査を通じて、演劇というジャンルに固有の、あるいは他ジャンルとも共通する沖縄の表象を浮き彫りにしたい。


奨励研究課題

演劇博物館所蔵中国演芸貴重資料の目録作成(継続)

代表者

李家橋

課題概要

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館では、中国演劇芸能関連の貴重資料を多く所蔵している。その代表として、たとえば、明の崇禎年間(1628-1644)刊行の『燕子箋』(坪内逍遥寄贈)や清の乾隆時代(1736-1795)刊行の『石榴記』『紅雪楼九種曲』など戯曲の版本は中国でも稀覯品になり、民国時代(1912-1949)に刊行した広東省潮州歌冊の作品群も他所になかなか見えないほど大量に揃っている。しかし、所蔵情報をあまり世に知られていないため、演劇博物館所蔵のそれらの貴重資料は今までほとんど注目されていない。本研究では、演劇博物館所蔵の中国演芸貴重資料の目録を作成・公開し、国内外の利用者に検索の便宜を提供して中国演芸貴重資料の価値を活用することを目指す。


奨励研究課題

植民地期の朝鮮映画と新派的感性――日本映画との比較を通して

代表者

具珉婀

課題概要

朝鮮において新派劇は 20 世紀初頭の「演劇改良論」と連動して日本から流入しており、映画製作の歴史は連鎖劇『義理的仇討』(1919)に始まる。このように朝鮮映画は、新派を媒介に、植民地的近代への魅惑や帝国主義への抵抗を含む複雑な関係のなかで成立してきた。しかし、こうした近代論的視点とは別に、大衆を惹きつけた新派的感性にも注目する必要がある。とりわけ、家族や恋人のために身を売る自己犠牲的なヒロインは、新派的感性を喚起する中心的存在であった。この表象は朝鮮映画に特有のものなのか、それとも日本の新派映画と共通するものなのか。この問いを出発点として、本研究では演劇博物館所蔵の一次資料をもとに、日朝両国の新派映画を比較分析する。新派の越境的展開を植民地的文脈から捉えるための基盤的知見を提示することが本研究の目的である。