平成30年度(2018) 成果報告4
演劇映像関連資料のデジタル化と共有化
本事業では、新たに演劇博物館所蔵の演劇映像資料のデジタル化を進めるとともに、昨年度までにデジタル化した資料の利活用の幅を広げる複数の事業を行った。
草創期テレビ台本のデジタル化
2016年度から継続的に取り組んできた「草創期テレビ台本のデジタル化」事業では、草創期のテレビで活躍した隣接分野(文学・映画)関連の台本を中心にデジタル化を進めた。安部公房、寺山修司、小津安二郎、大島渚、羽仁進等を取り上げ、テレビが多様な表現者にとって重要な領域であったことを示した。デジタル化された台本は演劇博物館の和書閲覧室と常設展示の専用端末でも閲覧に供し、台本資料の意義を幅広く来館者に伝えている。
映像資料のデジタル化
昨年度までにデジタル化した2種の映像資料の利活用の可能性を広げることを試みた。まず、演劇博物館を特集したテレビ番組『ちえのわクラブ』(TBS、1966年)を取り上げた。館蔵フィルムがオープニングの音楽以外の音声を欠いたものであったため、俳優の室井滋氏に依頼して放送台本をもとに1人5役で声をつけていただき、映画監督・TVディレクターの西原孝至氏に編集をしていただいた。この新しい音声映像は当館の90周年式典で披露され、来場者から大いに注目を集めた。
『ちえのわクラブ』上映時の様子
Screening of Chie no wa kurabu
また、小沢昭一旧蔵資料から発見された映画作品『乃木将軍』(池田富保監督、1935年)のデジタル化を契機としてシンポジウムと映画上映会「日本映画と語り物の文化」(12月15日、小野記念講堂)を行った。発見されたフィルムが浪曲トーキーのサイレント編集版であったことに鑑み、弁士の片岡一郎氏とピアニストの神﨑えり氏による上映と、浪曲師の東家一太郎氏と相三味線の東家美氏による上映の2種を試みた。また関連する演目として同名作品の映画琵琶台本『乃木将軍』(国立映画アーカイブ所蔵)が薩摩琵琶の川嶋信子氏により弾奏された。シンポジウムでは、柴田、真鍋昌賢氏(北九州市立大学教授)、小松弘氏(早稲田大学教授)により、映画史、浪曲史、音楽史など多角的に考察がなされた。さらに演劇・演芸評論家の矢野誠一氏に登壇いただき、児玉副館長を聞き手として、フィルムの旧蔵者小沢氏と浪曲・乃木物・演劇の関わりが語られた。当館所蔵のフィルムを機縁として、日本映画をとりまく語り物の文化の多様性の諸相に光を当てることができた。
『東家一太郎・美両氏による『乃木将軍』上映
Screening of Nogi Shogun by the Azumayas
鶴田コレクションのデジタル化
さらに、鶴田嘉七郎氏旧蔵の893点にのぼる熊本の戦前映画資料「鶴田コレクション」のデジタル公開作業を進めた。これを機として、熊本大学教育学部、一般財団法人山鹿市地域振興公社と当拠点の共同主催により、熊本の芝居小屋である八千代座で映画上映とシンポジウム「八千代座に甦る無声映画たち」(9月1日)を開催した。上田学氏、神田由築氏(お茶の水女子大学教授)、児玉副館長、柴田が登壇し、江戸期の芝居文化から大正・昭和の新国劇、そして熊本の映画興行をめぐって活発に討議が行われた。
質疑応答の様子
Question and answer session
このほか、共同研究事業によって蓄積された膨大なデジタル画像の公開準備を進め、映画伴奏楽譜資料、戦前日本映画興行資料、中国演劇資料などの館内公開作業を完了した。当館の貴重な演劇・映像資料のデジタル公開が演劇・映画研究のさらなる活性化につながることが期待される。