公開研究会
プレスシートから読み解く日活ロマンポルノ
報告
本共同研究チームでは、早稲田大学演劇博物館が所蔵する日活ロマンポルノのプレスシートの整理及び内容調査を行っている。成人映画のプログラム・ピクチャーであるロマンポルノは、撮影所システムの最後の砦として、戦後の日本映画史上において極めて重要な役割を果たした。その時代を中心に、プログラム・ピクチャーの製作から興行までを手掛けた撮影所としての日活の歴史を多角的に調査している。
そして本チームは2018年12月22日に、早稲田大学戸山キャンパスにて研究会「プレスシートから読み解く日活ロマンポルノ」を開催した。あいにくの天気にもかかわらず約60名の方にお越しいただき、立ち見が出るほどの盛況ぶりであった。
開会挨拶では、研究代表者の碓井みちこ(関東学院大学国際文化学部准教授)が、プレスシートとは何か、また研究題目にもある撮影所システムとは何かという解説を交えて、チームのプロジェクトの概要、そして今回の研究会の開催趣旨を説明した。
第一部は二つの研究発表で構成され、まず研究分担者の木原圭翔(東京大学大学院情報学環特任研究員)が「演劇博物館所蔵の日活ロマンポルノプレスシートの概要」という題目で、演劇博物館がどのような種類のプレスシートを所蔵しているのか、その中で本プロジェクトが対象としているロマンポルノのプレスシートとはどのような資料であるのか報告を行った。対象資料のロマンポルノプレスシートに関しては、全体の枚数や年代別の分布等をグラフで提示し、デジタル化したプレスシートの画像とともに紹介した。
続いて研究分担者の鳩飼未緒(早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程)が「プレスシートを中心とする映画関連資料を活用したケーススタディ」と題した発表を行い、『すけばん刑事 ダーティ・マリー』という1974年の日活製作・配給映画について、映画関連資料の中でも、本共同研究の対象であるプレスシートや、ポスター、新聞広告といった宣伝資料からどういったことが明らかになるのか、その活用例を示した。
第二部では、1975年に日活に入社し、10年近くにわたってロマンポルノの企画を担当されていた成田尚哉氏と、1985年に日活(当時の社名表記は「にっかつ」)入社後、1988 年のロマンポルノ終焉まで宣伝を手掛けていた早乙女朋子氏をゲストとしてお招きし、研究分担者の藤井仁子(早稲田大学文学学術院教授)と鳩飼が聞き手を務めて座談会を行った。成田氏からは、「天使のはらわた」シリーズや『ラブホテル』(1985年)といったロマンポルノでの担当作に関して、スクリーンに投影したプレスシートの画像を見ながら各企画の成立経緯等のお話をうかがった。また、ロマンポルノのプレスシートに掲載されるキャッチコピーやあらすじの執筆を担当されていた早乙女氏からは、プレスシートがどのように作成され、宣伝に活用されていたのか、具体的なエピソードを交えながら説明していただいた。
ロマンポルノの配給や興行に関しては証言が少なく、実態は映画研究者の間でもあまり知られていない。プレスシートはそうした側面の解明に最適であるにもかかわらず、これまで映画研究にほとんど活用されてこなかった。様々な角度からプレスシートへのアプローチを試みた本イベントをきっかけに、新たな研究の方向性を探っていく次第である。