夫との中に立おそのは一人小挑燈くらき思ひも子故の闇あやなき門を打たゝき伊五よ〱と呼声が寝耳にふつとあほうはかけ出おれ呼だは誰じや化粧の者か迷ひの者かイヤそのじや爰明てくれそふいふても氣味が悪い必ばあといふまいぞと言つゝ門の戸押ひらきヱヽお家さんかようごんしたの一人あるきをすると病犬が噛ぞへヲヽ犬に成共かまれて死だら今の思ひは有まいにおりや去れたわいやいとんな事にならんしたなア旦那殿はねてかイヽヱ留守かイヽヱ何の事じやぞやい何の事やらわしもしらぬが宵のくちに猫が鼠を取たかしてとつた〱と大勢来たがちやつとおれは蒲団かぶつたればつゐ寝入た今其わろ達と奥て酒盛ざゞんざやつてゞござんすハテ合点のいかぬそふしてぼんはねたかアイ是はようねてゞござんす旦那殿とねたかイヽヱわれとねたかイヽヱつゐ一人ころりとなぜ伽してねさしてくれぬそれでもわしにも旦那様にも乳がないといふて泣てばつかりヘヱヽ可愛やそふであろ〱そればつかりがほんの事とわつと泣出す門の口空にしられぬ雨の足かはく袂もなかりけるヤイ〱伊五めどこにおると呼立出る主の義平アイ〱爰にとかけ入跡尻目にかけてたわけめが奥へいて給仕ひろげと呵追やり門の戸をさすを押へてコレ旦那殿いふ事が有爰明てイヤ聞事もなしいふ事も内證ひ
夫との中に立おそのは一人リ小挑燈くらき思ひも子故の闇あやなき門を打たゝき伊五よ〱と呼声が寝耳にふつとあほうはかけ出おれ呼ンだは誰じや化粧の者か迷ひの者かイヤそのじや爰明ケてくれそふいふても氣味が悪ルい必ばあといふまいぞと言つゝ門の戸押ひらきヱヽお家さんかようごんしたの一人リあるきをすると病犬が噛ぞへヲヽ犬に成リ共かまれて死ンだら今の思ひは有ルまいにおりや去ラれたわいやいとんな事にならんしたなア旦那殿はねてかイヽヱ留守かイヽヱ何ンの事じやぞやい何ンの事やらわしもしらぬが宵のくちに猫が鼠を取ツたかしてとつた〱と大勢イ来たがちやつとおれは蒲団かぶつたればつゐ寝入ツた今其わろ達チと奥て酒盛ざゞんざやつてゞござんすハテ合点のいかぬそふしてぼんはねたかアイ是はようねてゞござんす旦那殿とねたかイヽヱわれとねたかイヽヱつゐ一人リころりとなぜ伽してねさしてくれぬそれでもわしにも旦那様ンにも乳がないといふて泣てばつかりヘヱヽ可愛やそふであろ〱そればつかりがほんの事とわつと泣出す門の口空にしられぬ雨の足かはく袂もなかりけるヤイ〱伊五めどこにおると呼立出る主の義平アイ〱爰にとかけ入跡尻目にかけてたわけめが奥へいて給仕ひろげと呵追イやり門の戸をさすを押へてコレ旦那殿いふ事が有爰明ケてイヤ聞事もなしいふ事も内證ひ
ハル:中にハル
長地:おそのは長地
ウ:くらきウ
キン:子,フシ:子キン/フシ
ウキン:あやなきウキン
色:打たゝき色
詞:伊五よ詞
地色:寝耳に,ハル:寝耳に地色/ハル
色:かけ出色
詞:おれ詞
地色:言つゝ,ハル:言つゝ地色/ハル
色:押ひらき色
詞:ヱヽ詞
地:そればつかりが,上:そればつかりが地/上
ウ:わつとウ
ウ:空にウ
フシ:かはく,中:かはく,ノル:かはくフシ/中/ノル
ハル:袂もハル
詞:ヤイ詞
地色:呼立,ウ:呼立地色/ウ
ハル:義平ハル
ウ:爰にとウ
ウ:尻目にウ
色:たわけめが色
詞:奥へ詞
地色:呵,ウ:呵地色/ウ
ハル:門のハル
ウ:さすをウ
詞:コレ詞
地色:イヤ,ウ:イヤ地色/ウ
ウ:内證ウ