婿婿殿
事はないかういふ事がいやさにむごふつらふいふたのがさぞにくかつたでござんしよなふイヽヱイナわたしこそ腹立まゝ町人の婿に成て義理も法もわすれたかといふたのが恥しいやら悲しいやらどふも顔が上られぬお石様となせ様氏も器量きりやうすぐれた子何として此様に果報くはほうつたない生れやと声も涙にせき上る本蔵あつき涙をおさへハツアヽ嬉しや本望や呉王こわういさめてちうせられはづかしめを笑ひし呉子胥ごししよが忠義は取たらず忠臣のかゝみとはもろこし予譲よじやう日本の大星昔ゟ今に至る迄唐と日本にたつた二人其一人を親に持力弥が妻に成たるは女御にようこ更衣かうゐそなはるより百ばいまさつてそちが身は武士の娘手柄てがら者手柄な娘が婿殿へお引の目録進上と懐中くはいちうゟ取出すを力弥取いたゞきひらき見ればコハいかに目録ならぬ師直が屋敷の案内一々に玄関けんくはん部屋水門物置しば部屋迄絵図ゑづくはしくかきたり由良助はつと押ヘツヱがたし〱徒党ととうの人数はそろへ共敵地の案内知ざる故發足ほつそく延引ゑんいんせり此絵図こそは孫呉そんご秘書ひしよ我為の六韜りくたうりやく兼て夜討と定めたれば継梯子つぎばしごにてへい忍び入には椽側ゑんがはの雨戸はづせば直に居間爰をしきつてかうせめてと親子が悦び手負ながらもぬからぬ本蔵イヤ〱それは僻言ひがことならん用心きびしきかう

フシ:事はフシ

詞:かう,ノリ:かう詞/ノリ

地色:果報,ハル:果報地色/ハル

上:生れやと

フシ:声もフシ

ノル:涙に,中:涙に,ハル:涙にノル/中/ハル

地:本蔵,ハル:本蔵地/ハル

ウ:嬉しや

色:本望や

詞:呉王を

地色:其,ウ:其地色/ウ

ハル:親にハル

ウ:力弥が

ウ:女御

上:百倍

ウ:武士の

色:手柄者

ハル:手柄なハル

中:婿殿へ

ウ:お引の

ウ:懐中ゟ

ハル:取出すをハル

ウ:力弥

色:コハ

ウ:目録ならぬ

ウ:屋敷の

ウ:玄関

ウ:水門

キン:絵図にキン

色:書付たり

ハル:由良助ハル

色:押戴

詞:ヘツヱ

地色:兼て,ウ:兼て地色/ウ

ウ:継梯子にて

ウ:忍び入には

ウ:雨戸

ハル:直にハル

ウ:爰を

ウ:かう

フシ:親子がフシ

地:手負ながらも,ウ:手負ながらも地/ウ

ハル:ぬからぬハル

色:本蔵イ

詞:イヤ,ノリ:イヤ詞/ノリ