宿殿殿殿
ました故此方にも時分じぶんの娘早うお渡し申たさ近比押付がましいが夫も参る筈なれど出仕しゆつしひまのない身の上此二こしは夫たましゐ是をさせば則本蔵か名代めうたいわたしが役の二人前由良助様にも御得まし祝言しうげんさせて落付たい幸けふは日柄ひがらもよし御用意ようゐなされ下さりませと相のぶる是は思ひも寄ぬ仰折悪う夫由良助は他行去ながらもし宿やどにおりましてお目にかゝり申さふならば御深切しんせつの段千万忝う存まする云号いひなづけ致した時は殿様の御恩に預り御知行ちぎやう頂戴てうたい致し罷有故本蔵様の娘御をもらひませう然らばくれうと云約束は申たれ共只今は浪人らうにんつかひとてもござらぬ内へいかに約束やくそくなれば迚大身たいしんな加古川殿の御息女そくぢよ世話せわに申挑燈ちやうちん釣鐘つりがねつり合ぬはふ縁のもとハテ結納たのみを遣はしたと申ではなしどれへなりと外々へ御遠慮ゑんりよなう遣はされませと申さるゝでござりませうと聞てはつとは思ひながらアノまあお石様のおつしやる事いかに卑下ひげなされう迚本蔵と由良助様身上が釣合ぬとなそんならば申せう手前の主人は小身せうしん故家老をつとめる本蔵は五百石塩冶殿は大名御家老の由助様は千五百石すりや本蔵が知行ちぎやうとは千石ちがふを合点で云号いひなづけはなされぬか只今は御浪人本蔵が知行とは皆違ふてから五百石イヤ其お詞違ひまする五百石

地:幸,ウ:幸地/ウ

ハル:日柄もハル

ウ:御用意

ウ:なされ

中:下さりませと,フシ:下さりませと中/フシ

ハル:相述るハル

詞:是は

地:聞て,ハル:聞て地/ハル

中:思ひながら

詞:アノ