て下されといひ入させて表の方乗物是へと舁寄させ娘爰へと呼出せば谷の戸明て鶯の梅見付たるほゝ笑顔まぶかに着たる帽子の内アノ力弥様のお屋敷はもふ爰かへわしや恥しいと媚かし取散す物片付て先お通りなされませと下女が伝へる口上に駕の者皆帰れ御案内頼ますといふもいそ〱娘の小浪母に付添座に直ればお石しとやかに出向ひ是は〱お二方共ようぞや御出とくよりお目にもかゝる筈お聞及びの今の身の上お尋に預りお恥しいあの改たお詞お目にかゝるは今日始なれど先達て御子息力弥殿に娘小浪を云号致したからはおまへ也わたし也婭同士御遠慮に及ぬ事是は〱痛入御挨拶殊に御用しげい本蔵様の奥方寒空といひ思ひがけない御上京となせ様はともあれ小浪御寮さぞ都めづらしからふ祗園清水智恩院大佛様御らうじたか金閣寺拝見あらばよい伝が有ぞへと心置なき挨拶に只あい〱も口の内帽子まばゆき風情也となせは行義改て今日参る事余の義にあらず是成娘小浪云号致して後御主人塩冶殿ふ慮の義に付由良助様力弥殿御在所もさだかならず移りかはるは世のならひ替らぬは親心とやかくと聞合せ此山科にござる由承り
て下されといひ入させて表の方乗物是へと舁寄させ娘爰へと呼出せば谷の戸明ケて鶯の梅見付ケたるほゝ笑顔まぶかに着たる帽子の内アノ力弥様のお屋敷はもふ爰かへわしや恥しいと媚かし取散す物片付ケて先お通りなされませと下女が伝へる口上に駕の者皆帰れ御案内頼ますといふもいそ〱娘の小浪母に付キ添座に直ればお石しとやかに出向ひ是は〱お二タ方共ようぞや御出とくよりお目にもかゝる筈お聞及びの今の身の上お尋に預りお恥しいあの改ツたお詞お目にかゝるは今日始メなれど先キ達ツて御子息力弥殿に娘小浪を云号致したからはおまへ也わたし也婭同士御遠慮に及ぬ事是は〱痛入御挨拶殊に御用しげい本蔵様の奥方寒空といひ思ひがけない御上京となせ様はともあれ小浪御寮さぞ都めづらしからふ祗園清水智恩院大佛ツ様御らうじたか金閣寺拝見あらばよい伝が有ぞへと心置キなき挨拶に只あい〱も口の内帽子まばゆき風情也となせは行義改メて今日参る事余の義にあらず是成ル娘小浪云号致して後チ御主人塩冶殿ふ慮の義に付キ由良ノ助様力弥殿御在所もさだかならず移りかはるは世のならひ替らぬは親心とやかくと聞合せ此山科にござる由承り
地:いひ,ハル:いひ地/ハル
フシ:乗物フシ
地:娘,ウ:娘地/ウ
ウキン:谷のウキン
ウ:鶯のウ
ウ:見付たるウ
ウ:ほゝ笑顔ウ
ウ:まぶかに,ヲクリ:まぶかにウ/ヲクリ
ハル:帽子のハル
詞:アノ詞
フシ:わしやフシ
地:取散す,ウ:取散す地/ウ
ウ:先ウ
ハル:なされませとハル
ウ:下女がウ
詞:駕の者詞
地色:御案内,ウ:御案内地色/ウ
フシ:母にフシ
地:お石,ハル:お石地/ハル
色:出向ひ色
詞:是は詞
地:お尋に,ハル:お尋に地/ハル
中:お恥しい中
詞:あの詞
地色:婭,ハル:婭地色/ハル
色:及ぬ色
詞:是は詞
地色:心置なき,ハル:心置なき地色/ハル
ウ:只ウ
フシ:帽子フシ
地:となせは,ハル:となせは地/ハル
色:改て色
詞:今日詞
地:移りかはる,ウ:移りかはる地/ウ
ハル:替らぬはハル
色:聞合せ色
詞:此詞