殿殿殿殿殿殿
中をさかし見れば財布に入たる此金道ならぬ事なれ共天より我にあたふる金とすぐにはせ行弥五郎殿にかの金を渡し立帰つて様子を聞ば打とめたるは我舅金は女房を売た金かほど迄する事なす事いすかのはしちがふといふも武運ふうんつきたる勘平が身のなり行推量すいりやうあれと血ばしる眼に無念の涙子細を聞より弥五郎ずんど立上り死骸しがい引上打返しムウ〱ときずあらため郷右衛門殿是見られよ鉄砲てつほう疵に似たれ共是は刀でゑぐつた疵ヱヽ勘平早まりしといふに手負ておひも見てびつくり母も驚斗也郷右衛門心付イヤコレ千崎殿アヽ是にて思ひあたつたり御自分じぶんも見られし通是へ来るばたに鉄砲請たる旅人の死骸しがい立寄見ればおの定九郎強欲こうよくな親九大夫さへ見かぎり勘当かんどうしたる悪党あくとう者身のたゝずみなき故に山ぞくすると聞たるが疑ひもなく勘平が舅を討たはきやつがわざそんなりやあの親父殿を殺したは外の者でござりますかへハアはつと母は手負ておひにすがりコレ手を合しておがみます年寄愚智ぐちな心からうらみ云たは皆あやまりこらへて下され勘平殿必死で下さるなと泣わぶれば顔ふり上只今母の疑ひも我悪名もはれたれば是を冥途めいどの思ひ出とし跡より追舅殿死出三ともなはんと突込つゝこむ刀引廻せばしばらく〱思はずも其方が舅の敵討たるはいまだ武運ぶうんつきさる

地:かほど迄す,上:かほど迄す地/上

ウ:いすかの

ウ:武運に

ウ:身の

スヱ:血ばしスヱ

中:無念の

地:子細を,ウ:子細を地/ウ

ハル:弥五郎ハル

中:立上り死骸

ウ:死骸

色:疵口

同:郷右衛門殿

地:いふに,ハル:いふに地/ハル

フシ:母もフシ

地:郷右衛門,ハル:郷右衛門地/ハル

色:心付イ

詞:イヤ

地:母は,ハル:母は,ウ:母は地/ハル/ウ

詞:コレ

地:こらへて,ハル:こらへて地/ハル

ウ:必死で下

ウ:泣詫

中:顔

詞:只今母の

地:突込刀引,ハル:突込刀引地/ハル

色:暫く〱思

詞:思はずも