調殿
泣居たる聞におとろき両人刀追取弓手馬手につめかけ〱弥五郎声をあらゝげヤイ勘非義ひき非道の金取て身のとがわびせよとはいはぬぞよわがやうな人非人にんぴにん武士の道は耳に入まい親同然のしうとを殺し金をぬすん重罪ぢうざい人は大身やり田楽てんがくざし拙者が手料理りやうりふるまはんとはつたとにらめは郷右衛門かつしても盗泉とうせんの水をのまずとは義者のいましめ舅を殺し取たる金亡君ぼうくんの御用金に成べきか生得しやうとく汝がふ忠ふ義のこんじやうにて調とゝのへたる金と推察すいさつ有てつき戻されたる由良助の眼力がんりき天晴あつはれ〱去ながらハア情なきは此事世上に流布るふて塩冶判官の家来早の勘平非義非道をおこなひしといはゞ汝斗が恥ならず亡君の御恥辱ちじよくとしらざるかうつけ者左程の事のわきまなき汝にてはなかりしがいかなる天が見入しとするとき眼に涙をうかめ事をわけ利をせむればたまり兼て勘平諸肌もろはだぬぎ脇指をぬくより早く腹にぐつとつき立アヽいづれもの手前面目めんぼくもなき仕合拙者がのぞみ叶はぬ時は切腹と兼ての覚悟かくごしうとを殺せし事亡君の御恥辱とあれば一通り申ひらかん両人共に聞てたべ夜前弥五郎殿の御目にかゝり別れて帰るくらまぎれ山こすしゝに出合二つ玉にて打留かけよつてさぐり見れば猪にはあらで旅人なむ三宝あやまつたり薬はなきかとくはい

中:泣居

地:聞に驚,ウ:聞に驚地/ウ

ウ:弓手

ハル:詰かけ〱ハル

ウ:弥五郎

色:あらゝ

詞:ヤイ

地:はつたと,ハル:はつたと地/ハル

色:郷右衛門

詞:かつして

地:する,ハル:する地/ハル

ウ:涙を

中:せむれば

ウ:たまり兼て勘

ハル:諸肌押ハル

ウ:ぬくより

色:突立アヽ

詞:アヽ