殿退殿退
れな弥五郎足利殿に何うらみて弓引べき彼等親子が心ていをさぐらん為のけいりやく薬師寺に屋敷を渡し思ひ〱に当所を立退のき都山しなにて再会さいくはい胸中けうちう残さず打明評義へうぎをしめんといふ間もあらせず次郎左衛門一間を立出ハテへん〱と長詮義せんぎ死からだ片付たら早く屋敷を明渡せといがみかゝれば郷右衛門アヽ成程お亡君所持ぼうくんしよちの御道具其外の武具馬具ぶぐばぐ迄よく〱あらため請取られよサア由良助殿退散たいさんあれヲヽ心得たりとしづ〱と立上り御先祖せんそ代々我々も代々昼夜ちうやつめたるやかたの内けふをかきりと思ふにぞ名残おしげに見返り〱御門外もんくはいへ立出れば御から奉り力弥矢間やさまほり小寺追々にはせ帰り扨は屋敷をお渡し有たか此上は直義の討手を引討死せんとはやり立ば由良助イヤ〱今死すべき所にあらず是を見よかた〲亡君ほうくんの御かたみ抜放ぬきはなし此切には我君の御血をあやし御無念のたましゐを残されし九寸五分此刀にて師直が首かき切て本意をとげんげに尤と諸武士のいさみ屋敷の内には薬師寺次郎門くはんの木はつしと立させ師直公のばちがあたり扨よいざま〱と家来一度に手をたゝきどつと笑ふときの声あれ聞れよと若侍わかざふらひて返すを由良助先君の御いきどほりはらさんと思ふ所存はないかはつと一度に立出しが思へば無念と館の内をふり返り〱はつたとにらんんで立出る

地色:都,ウ:都地色/ウ

ハル:胸中ハル

ウ:評義を

中:あらせず

ハル:次郎左衛門ハル

色:立出

詞:ハテ

地:いがみ,ハル:いがみ地/ハル

中:郷右衛門

詞:アヽ

地色:ヲヽ,ウ:ヲヽ地色/ウ

ハル:立ハル

詞:御先祖

地:昼夜,ハル:昼夜地/ハル

ウ:つめたる

ウ:けふを

中:名残

上:見返り

ウ:〱

フシ:御門外へフシ

地:御骸,ハル:御骸地/ハル

ウ:力弥

ウ:追々に

色:馳帰り

色:扨は

地:討手を,ハル:討手を地/ハル

ウ:はやり

中:由良助イ

詞:イヤ

地:亡君の,ハル:亡君の地/ハル

詞:此

地:実,ウ:実地/ウ

ハル:諸ハル

ウ:屋敷の

ウ:門の

色:立させ

詞:師直公の

地色:家来,ウ:家来地色/ウ

ウ:どつと

フシ:ときの声フシ

地:あれ,ハル:あれ地/ハル

ウ:取て返すを

中:由良助

詞:先君の

地:はつと,ハル:はつと地/ハル

中:立出しが

ウ:思へば

コハリ:ふり返りコハリ

ウ:〱

色:はつたと

三重:立出る三重