かき上れば御臺所は正体なく歎給ふをなぐさめて諸士のめん〱我一と御乗物にひつ添〱御菩提所へと急ぎ行人々御骸見送りて座につけば斧九大夫何大星殿其元は御親父八幡六郎殿よりの家老職拙者迚も其右には座せ共今日より浪人となり妻子をはごくむ術なし殿の貯置給ふ御用金を配分し早く屋敷を渡さずば薬師寺殿へ無礼ならんイヤ千崎が存るにはさす敵の高の師直存命なるが我々が鬱憤討手を引請此屋形を枕としてアヽこれ〱討死とはわるい了簡親九大夫の申さるゝ通屋敷を渡し金銀を分て取が上分別と評義の中に由良助黙然として居たりしが只今の評定に弥五郎の所存と我胸中一致せりいはゞ亡君の御為に我々殉死すべき筈むざ〱と腹切ふより足利の討手を待請討死と一決せりヤア何といはるゝよい評定かと思へば浪人のやせ顔はり足利殿に弓ひかふアヽそれは無分別マア此九大夫合点がいかぬヲヽ親父殿そふじや〱此定九郎も其意を得ぬ此談合にははぶいて貰はふ長居は無益お帰りなされそれよかろいづれもゆるりと居めされと親子打つれ立帰るヤア欲頬の斧親子討死を聞おぢして逃帰つたる憶病者きやつ構はずと大星殿討手を待御用意〱アヽさはが
かき上れば御臺所は正体なく歎キ給ふをなぐさめて諸士のめん〱我レ一チと御乗リ物にひつ添〱御菩提所へと急ぎ行人々御ン骸見送クりて座につけば斧九大夫何大星殿其元は御親父八幡六郎殿よりの家老職拙者迚も其右には座せ共今日より浪人となり妻子をはごくむ術なし殿の貯置キ給ふ御用金を配分ンし早く屋敷を渡さずば薬師寺殿へ無礼ならんイヤ千崎が存るにはさす敵の高の師直存命なるが我々が鬱憤討ツ手を引請ケ此屋形を枕としてアヽこれ〱討死とはわるい了簡親九大夫の申さるゝ通リ屋敷を渡し金銀を分ケて取が上分別と評義の中チに由良ノ助黙然として居たりしが只今の評定に弥五郎の所存ンと我カ胸中一ツ致せりいはゞ亡君の御為に我々殉死すべき筈むざ〱と腹切ふより足利の討ツ手を待チ請ケ討死と一決せりヤア何ンといはるゝよい評定かと思へば浪人のやせ顔はり足利殿に弓ひかふアヽそれは無分別マア此九大夫合点がいかぬヲヽ親父殿そふじや〱此定九郎も其意を得ぬ此談合にははぶいて貰はふ長居は無益お帰りなされそれよかろいづれもゆるりと居めされと親子打つれ立帰るヤア欲頬の斧親子討死を聞おぢして逃ケ帰つたる憶病者きやつ構はずと大星殿討手を待御用意〱アヽさはが
中:なぐさめて中
ウ:諸士のウ
ウ:御乗物にウ
ヲクリ:御菩提ヲクリ
地:人々,ハル:人々地/ハル
中:見送りて中
ウ:座にウ
色:斧色
詞:何詞
地:評義の,ハル:評義の地/ハル
ウ:黙然としてウ
中:居たりしが中
詞:只今の詞
地:此,ウ:此地/ウ
ハル:長居はハル
色:お帰り色
詞:それ詞
地:いづれも,ハル:いづれも地/ハル
フシ:親子フシ
地:ヤア,ハル:ヤア地/ハル
ウ:討死をウ
ウ:逃ウ
ウ:きやつウ
ウ:討手をウ
色:御用意色
詞:アヽ詞