退使
退使
ひ候はんフウ尤成願ひなれ共由良助が参る迄無用むよう〱はつと斗一間に向ひ聞るゝの御なれば一人も叶ぬ〱諸士しよしは返す詞もなく一間もひつそとしづまりける力弥御意を承はり兼て用意ようゐの腹切刀御前に直すれば心しづかに肩衣かたぎぬ退のけ座をくつろげコレ〱御検使けんし御見届下さるへしと三方引寄九寸五分押いたゝき力弥〱ハア由良助はいまだ参上仕りませぬフウヱヽ存生に対面たいめんせで残念ハテ残り多やな是非ぜひに及ばぬ是迄と刀さか手に取直し弓手につき立引廻す奥方二目と見もやらず口に称名せうめう目に涙廊下らうかふすまふみひらきかけ込大星由良助主君の有様見るよりもはつと斗にどうとふす跡につゞい千崎せんざき矢間やさま其外の一家中ばら〱とかけ入たりヤレ由良助待兼たはやいハア御存じやうの御尊顔そんがんはいし身に取て何程かヲヽ我も満足まんぞく〱定めて子細しさい聞たであろヱヽ無おしいはやい委細承知ゐさいせうち仕る此に及び申上る詞もなし只御最期さいこ尋常じんじやうをねがはしう存まするヲヽいふにや及ぶと諸手もろてをかけぐつ〱と引廻しくるしきいきをほつとつき由良此九寸五分は汝へ形見我鬱憤うつぷんをはらさせよと切にてふゑはね血刀投出しうつふせにどうどまろび息絶いきたゆれば御臺を始め並居る家中眼とち息をつめくひしばりひかゆれば由良助にじり寄刀取上いたゞき血に染る切先を打守り〱こぶしを握り

地:はつと,ハル:はつと地/ハル

中:向ひ

詞:聞るゝ

地:諸士は,ハル:諸士は地/ハル

中:一間も

ウ:ひつそと

フシ:しづまりけるフシ

地:力弥,ハル:力弥地/ハル

ウ:兼て用

ウ:御前

中:直すれば

ウ:肩衣

色:くつろげ

詞:コレ

地:三方,ウ:三方地/ウ

ハル:九寸五分ハル

詞:力弥

地色:刀,ウ:刀地色/ウ

ウ:弓手に

ハル:引廻すハル

上:奥方

ウ:口に

中:目に

ウ:廊下の

ウ:かけ込

ハル:主君のハル

上:はつと,ウ:はつと上/ウ

中:ふす

ウ:跡に

ハル:其ハル

フシ:ばら〱とフシ

詞:ヤレ

地色:ヲヽ,ウ:ヲヽ地色/ウ

ウ:ぐつ

ハル:くるしきハル

色:ほつと

詞:由良助

地:切先にて,ウ:切先にて地/ウ

ハル:血刀ハル

ウ:どうど

色:息

ハル:御臺をハル

ウ:詰

中:扣ゆれば

ウ:由良助に

ハル:血にハル

中:打守り

上:拳を