日殿の御機嫌はいかゞお渡り遊ばさるゝと申上ればかほよ御前ヲヽ二人共太義〱此度は判官様お氣詰りに思召おしつらひでも出よふかと案じたとは格別明暮築山の花ざかり御らうじて御機嫌のよいお顔ばせそれ故に自もお慰に指上ふと名有桜を取寄て見やる通の花拵へアヽいか様にも仰の通花は開く物なれば御門も開き閉門を御赦さるゝ吉事の御趣向拙者も何がなと存ずれどかやうな事の思ひ付は無調法成郷右衛門ヤア肝心の事申上ん今日御上使のお出と承はりしが定て殿の御閉門を御赦さるゝ御上使ならん何と九大夫殿そふは思召れぬかハヽヽヽヽコレ郷右衛門殿此花といふ物も当分人の目を悦ばすばつかり風がふけば散失るこなたの詞もまつ其ごとく人の心を悦ばさふ迚武士に似合ぬぬらりくらりと跡から禿る正月詞なぜとおいやれ此度殿の御越度は饗應の御役義を蒙りながら執事たる人に手を負せ館をさはがせし科軽うて流罪重うて切腹じたい又師直公に敵対は殿の御ふ覚と聞もあへず郷右衛門扨は其方殿の流罪切腹を願はるゝかイヤ願ひは致さねど詞をかざらず真実を申のじやもとをいへば郷右衛門殿こなたの悋惜しわさから發た事金銀を以て頬をはりめさるればケ様な事は出来申さぬと己が心に引当て欲面打消郷右衛門人にこび諂ふは侍でない
日殿の御機嫌はいかゞお渡り遊ばさるゝと申上ればかほよ御前ヲヽ二人共太義〱此度は判官様お氣詰りに思召シおしつらひでも出よふかと案じたとは格別明ケ暮築山の花ざかり御らうじて御機嫌のよいお顔ばせそれ故に自もお慰に指上ふと名有桜を取寄セて見やる通リの花拵へアヽいか様にも仰の通リ花は開く物なれば御門ンも開き閉門を御赦さるゝ吉事の御趣向拙者も何がなと存ずれどかやうな事の思ひ付キは無調法成ル郷右衛門ヤア肝心の事申上ケん今日御上使のお出と承はりしが定メて殿の御閉門を御赦さるゝ御上使ならん何ンと九大夫殿そふは思召サれぬかハヽヽヽヽコレ郷右衛門殿此花といふ物も当分ン人の目を悦ばすばつかり風がふけば散失るこなたの詞もまつ其ごとく人の心を悦ばさふ迚武士に似合ぬぬらりくらりと跡から禿る正月詞なぜとおいやれ此度殿の御ン越度は饗應の御ン役義を蒙りながら執事たる人に手を負せ館をさはがせし科軽うて流罪重うて切ツ腹じたい又師直公に敵対は殿の御ふ覚と聞もあへず郷右衛門扨は其方殿の流罪切ツ腹を願はるゝかイヤ願ひは致さねど詞をかざらず真実を申スのじやもとをいへば郷右衛門殿こなたの悋惜しわさから發た事金銀を以ツて頬をはりめさるればケ様な事は出来申さぬと己が心に引当テて欲面打消郷右衛門人にこび諂ふは侍イでない
地色:申上れば,ハル:申上れば地色/ハル
中:かほよ中
詞:ヲヽ詞
地色:それ,中:それ地色/中
ハル:指上ふとハル
ウ:名ウ
ウ:見やるウ
中:花中
詞:アヽ詞
地色:聞も,ハル:聞も地色/ハル
色:郷右衛門色
詞:扨は詞
地:己が,ハル:己が地/ハル
ウ:欲面ウ
色:郷右衛門色
詞:人に詞