おいて頬出せぬ主か主なれは家老で候とて諸事に細心の付やつが独もないいざ〱若狭殿御前へ御供致そサアお立なされサアササア師直め誤つておるぞコリヤ爰な脺め〱すい様めイヤ若狭助最前からちと心悪うござるマア先へ何とした〱腹痛かコレサ伴内お背〱お薬しんじよかなイヤ〱それ程にもござらぬ然らば少の内おくつろぎ御前の首尾は我等がよい様に申上る伴内一間へ御供申せと主従寄てお手車に迷惑ながら若狭助是はと思へどぜひなくも奥の一間へ入ければアヽもふ楽じやと本蔵は天を拝し地を拝しお次の間にぞ扣へ居る程も有さず塩冶判官御前へ通る長廊下師直呼かけ遅し〱何と心得てござる今日は正七つ時と先刻から申渡したでないか成程遅なはりしは不調法去ながら御前へ出るはまた間もあらんと袂より文箱取出し最前手前の家来が貴公へお渡し申くれよ則奥かほよ方ゟ参りしと渡せは受取成程〱イヤ其元の御内宝は扨々心がけがござるは手前が和哥の道に心を寄るを聞添削を頼と有定て其事ならんと押ひらきさなきだにおもきかうへの狭夜衣我つまならぬつまな重ねそハア是は新古今の哥此古哥に添削とはムヽ〱と思案の内我恋の叶はぬしるし扨は夫にも打明しと思ふ怒をさあらぬ顔判官殿此哥御らうじたでござらふイヤ只今見ましたムヽ手前が読のをアヽ貴殿の奥方はきつい貞女でござるちよつとつかはさるゝ
おいて頬出せぬ主か主なれは家老で候とて諸事に細心の付クやつが独もないいざ〱若狭殿御前へ御供致そサアお立なされサアササア師直め誤つておるぞコリヤ爰な脺め〱すい様めイヤ若狭ノ助最前からちと心悪うござるマア先キへ何ンとした〱腹痛かコレサ伴内お背〱お薬しんじよかなイヤ〱それ程にもござらぬ然らば少シの内おくつろぎ御前の首尾は我等がよい様に申シ上る伴内一ト間へ御供申せと主従寄ツてお手車に迷惑ながら若狭助是はと思へどぜひなくも奥の一ト間へ入ければアヽもふ楽じやと本蔵は天を拝し地を拝しお次の間にぞ扣へ居る程も有ラさず塩冶判官御前へ通る長廊下師直呼かけ遅し〱何と心得てござる今日は正七つ時と先ン刻から申渡したでないか成ル程遅なはりしは不調法去ながら御前へ出るはまた間もあらんと袂より文箱取出し最前ン手前の家来が貴公へお渡し申くれよ則チ奥かほよ方ゟ参りしと渡せは受ケ取リ成程〱イヤ其元の御内宝は扨々心がけがござるは手前が和哥の道に心を寄スるを聞添削を頼ムと有定て其事ならんと押ひらきさなきだにおもきかうへの狭夜衣我つまならぬつまな重ねそハア是は新古今の哥此古哥に添削とはムヽ〱と思案の内我恋の叶はぬしるし扨は夫トにも打明しと思ふ怒をさあらぬ顔判官殿此哥御らうじたでござらふイヤ只今見ましたムヽ手前が読のをアヽ貴殿ンの奥方はきつい貞女でござるちよつとつかはさるゝ
地:主従,ハル:主従地/ハル
ウ:是はとウ
中:奥の中
ハル:入ければハル
ウ:もふウ
ウ:天をウ
フシ:お次の間にぞフシ
地:程も,ウ:程も地/ウ
ハル:塩冶ハル
ウ:御前へウ
ウ:師直ウ
色:遅し色
詞:何と心詞
地:袂より,ハル:袂より地/ハル
色:取出し色
詞:最前詞
地:渡せは,ハル:渡せは地/ハル
色:成程色
詞:イヤ詞
地:定て,ハル:定て地/ハル
色:押ひらき色
詞:さなきだに詞
地:ムヽ〱,ウ:ムヽ〱地/ウ
ウ:我ウ
ウ:扨はウ
ハル:思ふハル
色:さ色
詞:判官殿詞