殿殿退
つぎほなく師直様は今しばし御苦労くらうながらお役目をお仕舞しまひておしづかにおいとまの出た此かほよ長居はおそれおさらばと立上る袖すり寄てじつとひかへコレまあおまち給へけふの御用仕舞次第其元推参すいさんしてお目にかける物が有のよい所召出された直義公は我為のむすぶの神御存のごとく我等哥道に心をよせ吉田の兼好けんこう師範しはんと頼み日々の状通しやうつう其元へとゝけくれよととひ合せの此書状いかにもとのお返事は口上でも苦しうないとたもとから袂へ入るゝむすび文顔に似合ぬさままいる武蔵あぶみと書たるを見るよりはつと思へ共はしたなうはぢしめてはかへつて夫の名の出る事持帰つて夫に見せうかいや〱それでは塩冶殿にくと思ふ心から怪我けがあやまちにもならふかと物をもいはずなけ返す人に見せじと手に取上戻すさへ手にふれたりと思ふにぞ我文ながら捨も置れずくどうはいはぬよい返事聞迄はくどいて〱くどきぬく天下をたてふとふせふ共まゝな師直塩冶を生ふところそふ共かほよの心たつた一つなんとそふでは有まいかと聞にかほよが返答へんたうも涙ぐみたる斗なり折から合す若狭れい非道ひだうと見て氣転きてんかほよ殿まだ退出たいしゆつなされぬかおいとま出てひまどるはかへつて上へのおそれはや

ハル:つぎほハル

ウ:師直様は

ウ:お役目を

色:お仕舞有

色:おしづか

詞:お暇の

地:立上る袖す,ハル:立上る袖す地/ハル

色:じつと

詞:コレ

地:袂から,ウ:袂から地/ウ

ハル:むすび文ハル

ウ:武蔵あぶみと

ウ:書たるを

ウ:はしたなう

ウ:名の

ウ:夫に

中:いや

ウ:それでは

ハル:憎しとハル

ウ:あやまちにも

フシ:物をもフシ

色:なけ返す

ウ:人に

ウ:手に

詞:戻すさへ

地:聞に,ウ:聞に地/ウ

ハル:返答もハル

フシ:涙ぐみたるフシ

地色:折から,ウ:折から地色/ウ

ハル:例のハル

ウ:見て

詞:かほよ殿

地:かへつて,ウ:かへつて地/ウ

フシ:はやフシ