殿
あらば兜の本阿弥あみ目利めきゝ〱と女には厳命げんめいさへもやはらかにお受も又なよやかめうに餘る君の仰夫こそは私が明暮手なれ御着こちやくの兜義貞殿拝領はいれうにて蘭奢らんじやたいといふ名香めいかうそへて給はる御取次は則かほよ其時の勅答ちよくたうには人は一代名は末代すは死せん時此蘭奢待らんじやたいを思ふ侭内兜にたきしめ着ならばびんかみとめて名香かほる首取しといふ者あらば義貞か最期さいごと思召れよとの詞はよもやちがふまじと申上たる口もとに下心有師直は小鼻こばないからし聞居たる直義くはしく聞し召ヲヽつまひらかかほよが返答へんたうさあらんと思ひし故落ちつたる兜四十七此唐櫃からひつに入たり見分させよと御諚意ぢやうゐの下侍かゞむる腰の海老錠ゑひちやうを明おそしと取出すをおめすおくせず立寄て見れば所も名にしおふ鎌倉山のほし兜とつぱいかしらしゝ頭扨指物は家々の流義りうぎ〱によるぞかしあるひ直平ちよつぺい筋兜しころのなきは弓の為其ぬし〱のこのみとて数々多き其中にも五枚兜の龍頭たつがしら是ぞといはぬ其内にぱつとかほりし名香はかほよがなれし義貞の兜にて御座候と指出せば左様ならめと一けつし塩治桃井両人は宝蔵におさむべしこなたへ来れと御座を立かほよにおいとま給はりてだんかづらを過給へば塩冶桃井両人も打連てこそ入にける跡にかほよは

地:目利〱,ハル:目利〱地/ハル

ウ:厳命さへも

フシ:お受申フシ

詞:冥加に

地:鬢の,ウ:鬢の地/ウ

ハル:香をハル

ウ:いふ

ウ:義貞か

ウ:思召

ウ:違まじと

ウ:申上

中:下心,ヒロイ:下心中/ヒロイ

ハル:師直はハル

フシ:小鼻フシ

地色:直義,ハル:直義地色/ハル

色:聞し

詞:ヲヽ

地:見分さ,ウ:見分さ地/ウ

ハル:御諚意のハル

中:下侍

ウ:腰の

ハル:間遅しハル

中:取出すを

ウ:臆せず

ハルフシ:見ればハルフシ

中:名にし

ウ:鎌倉山の

フシ:星兜フシ

ウ:とつぱい頭

ウ:しゝ頭

フシ:流義フシ

地:或は,中:或は,キン:或は地/中/キン

ウキン:錣のウキン

ハル:弓のハル

中:其ぬ

ハル:好とてハル

ウ:数々

ウ:五枚兜の

中:名香は,ヲン:名香は中/ヲン

ハル:かほよが,ウ:かほよがハル/ウ

フシ:指出せばフシ

地:左様ならめと,ウ:左様ならめと地/ウ

ウ:塩治

ハル:宝蔵にハル

中:立

ウ:かほよに

ウ:過

ウ:塩冶

ハル:桃井ハル

中:両人も

ヲクリ:打連てこそヲクリ

地色:跡に,ウ:跡に地色/ウ