上を始一門残らず海に沈と聞つるに教経はさはなかりしなはつと勅答黒髪を隠せし頭巾かなぐり捨鎧の袖かき合せ臣が乳母子讃岐六郎といふ者能登守教経と名乗安藝太郎兄弟を左右に挟海へ飛入空しく成又此教経は人しらぬ磯辺に上り祈祷坊主の山科法橋頼んでやつす姿は覚範義経に怨を報はんとかけ入此間に玉躰のまします事擒れさせ給ひしか恐れながら勅定に明させ給へと奏すればまだ幼天皇も御涙にくれさせ給ひ教経も知ごとく八嶋の内裏を遁れ出頼なき世を待つるに義経にめぐり逢源氏の武士の情有心に恥て知盛は我事をくれ〲と頼て海へ入たるぞ夫より丸も爰に来て今教経に逢事も皆義経が計ひ日の本の主とは生るれ共天照神に背しか我治しる我国の我国人に悩され我国狭き身の上にも只母君が恋しいぞ都に有し其時は富士の白雪吉野の春見まくほしさと慕へ共小原の里におはします母上恋しと慕ふ身は花も吉野も何かせんあぢきなの身の上を思ひやれと計にて伏まろびてぞ泣給ふ御いたはしさ勿躰なさヱヽしなしたり〱知盛も教経も遖たくみし計略智謀義経に見さがされしはよつく武運に盡たるなヘツヱ是非もなや口惜やと無念のおく歯に血をそゝぎ握り詰たる掌裏に爪も通らん其氣色数百斤のまぶ
上を始メ一チ門ン残らず海に沈と聞つるに教経はさはなかりしなはつと勅答黒髪を隠せし頭巾かなぐり捨鎧の袖かき合せ臣が乳母子讃岐ノ六郎といふ者能登ノ守教経と名乗リ安藝ノ太郎兄弟を左右に挟海へ飛入空しく成ル又ツ此教経は人しらぬ磯辺に上り祈祷坊主の山科法橋頼んでやつす姿は覚範義経に怨を報はんとかけ入此間に玉ク躰のまします事擒れさせ給ひしか恐れながら勅定に明カさせ給へと奏すればまだ幼天皇も御涙にくれさせ給ひ教経も知ルごとく八嶋の内裏を遁れ出頼なき世を待チつるに義経にめぐり逢源氏の武士の情有ル心に恥て知盛は我事をくれ〲と頼て海へ入ツたるぞ夫レより丸も爰に来て今教経に逢事も皆義経が計ひ日の本の主シとは生るれ共天照神に背しか我治しる我国の我国人に悩され我国狭き身の上にも只母君が恋しいぞ都に有し其時は富士の白雪吉野の春見まくほしさと慕へ共小原の里におはします母上恋しと慕ふ身は花も吉野も何かせんあぢきなの身の上を思ひやれと計リにて伏まろびてぞ泣給ふ御いたはしさ勿躰なさヱヽしなしたり〱知盛も教経も遖たくみし計略智謀義経に見さがされしはよつく武運に盡たるなヘツヱ是非もなや口惜やと無念のおく歯に血をそゝぎ握り詰たる掌裏に爪も通らん其氣色数百斤のまぶ
地色:はつ,ハル:はつ地色/ハル
ウ:鎧のウ
色:かき合せ色
詞:臣が詞
地:義経に,ウ:義経に地/ウ
ウ:かけ入ウ
ハル:玉躰のハル
ウ:擒れさせウ
ウ:給ひしかウ
ウ:恐れながらウ
スヱテ:明させスヱテ
中:奏すれば中
地:まだ,中:まだ地/中
ウ:天皇もウ
ウ:御涙にウ
フシ:くれさせフシ
地色:教経も,ハル:教経も地色/ハル
色:知ごとく色
詞:八嶋の詞
地色:夫より,中:夫より地色/中
ウ:丸もウ
ハル:逢ハル
ウ:皆ウ
中:計ひ中
ウ:日の本のウ
ハル:生るれ共ハル
ウ:天照神にウ
ウ:我ウ
ウ:悩されウ
ウ:我ウ
中:身の上にも中
ウ:只ウ
フシ:恋しいぞフシ
地:都に,中:都に,ウ:都に地/中/ウ
ハル:吉野のハル
ウ:見まくほしさとウ
ウ:小原のウ
ウ:母上ウ
ウ:慕ふウ
文弥:花も,上:花も文弥/上
ウ:吉野もウ
ナヲス:あぢきなの,ハル:あぢきなのナヲス/ハル
スヱテ:伏スヱテ
ウ:まろびてぞ,中:まろびてぞウ/中
ハル:泣ハル
中:給ふ中
フシ:御いたはしさフシ
地色:ヱヽ,ハル:ヱヽ地色/ハル
中:〱知盛も教中
詞:知盛も詞
上:ヘツヱ上
ウ:是非もウ
ウ:口惜やウ
ウ:無念のウ
ウ:握りウ
ウ:爪もウ
ウ:数百斤のウ