故に殺されしと思へば照日がうらめしく曇ぬ雨は我涙願ひ叶ふが嬉しさに年月馴しつま狐中に設し我子狐不便さ余つて幾度か引るゝ心をどうよくに荒野に捨て出ながら飢はせぬか凍はせぬか若狩人に取れはせぬか我親を慕程我子もてうど此様に我を慕はふがと案し過しがせらるゝは切ても切ぬ輪廻のきづな愛着の鎖に繫留られて肉も骨身も砕る程悲しい妻子をふり捨て去年の春から付添て丸一年立や立ずいねと有迚何とマアあつと申ていなれましよかいの〱お詞背かば不孝と成盡した心も水の泡せつなさが余つて帰る此身は何たる業まだせめてもの思ひ出に大将の給はつたる源九郎を我名にして末世末代呼るゝ共此悲しさは何とせん心を推量し給へと泣つくどいつ身もだへしとうどふして泣叫ぶは大和国の源九郎狐と云伝へしも哀也静は遉女氣の彼が誠に目もうるみ一間の方に打向ひ我君夫にましますかと申内より障子を開きヲヽ委しく聞届し扨は人にてなかりしな今までは義経も狐とは知ざりし不便の心と有ければ頭をうなたれ礼をなし御大将を伏拝〱座を立は立ながら鼓の方をなつかしげに見返り〱行となく消る共なき春霞人目朧に見へされば大将哀と思召アレ呼かへせ鼓打音に連又も帰りこん鼓々と有けるにぞ静は又も取上て打はふしぎや音は出す是は〱と取直し打共〱こはいかに上共平共音せぬはハア扨は魂残す此鼓親
故に殺されしと思へば照ル日がうらめしく曇ぬ雨は我涙願ひ叶ふが嬉しさに年ン月馴しつま狐中に設し我子狐不便さ余つて幾度か引カるゝ心をどうよくに荒野に捨て出ながら飢はせぬか凍はせぬか若狩人に取ラれはせぬか我親を慕程我子もてうど此様に我を慕はふがと案し過しがせらるゝは切ても切レぬ輪廻のきづな愛着の鎖に繫留られて肉も骨身も砕る程悲しい妻子をふり捨て去年の春から付キ添て丸一チ年ン立ツや立タずいねと有ル迚何ンとマアあつと申ていなれましよかいの〱お詞背かば不孝と成盡した心も水の泡せつなさが余つて帰る此身は何たる業まだせめてもの思ひ出に大将の給はつたる源九郎を我名にして末世末ツ代呼るゝ共此悲しさは何とせん心を推量し給へと泣つくどいつ身もだへしとうどふして泣叫ぶは大和国の源九郎狐と云伝へしも哀也静は遉女コ氣の彼レが誠に目もうるみ一間の方に打向ひ我君夫レにましますかと申内より障子を開きヲヽ委しく聞届し扨は人にてなかりしな今までは義経も狐とは知ラざりし不便の心と有ければ頭をうなたれ礼をなし御大将を伏拝〱座を立は立ながら鼓の方をなつかしげに見返り〱行となく消る共なき春霞人目朧に見へされば大将哀と思召アレ呼かへせ鼓打テ音に連又も帰りこん鼓々と有けるにぞ静は又も取上て打はふしぎや音は出す是は〱と取直し打テ共〱こはいかに上共平共音せぬはハア扨は魂残す此鼓親
地:曇ぬ,上:曇ぬ,サハリ:曇ぬ地/上/サハリ
詞:願ひ詞
地色:切ても,ハル:切ても地色/ハル
上:切ぬ上
サハリ:きづなサハリ
ウ:愛着のウ
中:繫留られて中
詞:肉も詞
地:末世,ハル:末世地/ハル
上:此上
ウ:心をウ
ウ:とうどウ
中:泣叫ぶは中
ウ:大和国のウ
ウ:源九郎狐とウ
フシ:云伝フシ
ハル:へしもハル
中:哀也中
ハルフシ:静はハルフシ
中:彼が,ウ:彼が中/ウ
ハル:一間のハル
色:方に色
詞:我詞
地色:申,ウ:申地色/ウ
ハル:扨はハル
詞:今までは詞
地:不便の,ハル:不便の地/ハル
中:有ければ中
ウ:礼をウ
ハル:御大将を,サハリ:御大将をハル/サハリ
ウ:座をウ
ウ:鼓のウ
ノル:見,ヲクリ:見ノル/ヲクリ
中:行となく,ウ:行となく中/ウ
ウ:消る共ウ
色:見へされば色
ハル:大将ハル
ウ:アレウ
ウ:音にウ
フシ:鼓フシ
地色:静は,ウ:静は地色/ウ
ハル:音はハル
ウ:是はウ
ウ:〱こウ
中:いかに中
ウ:上共ウ
ハル:音ハル
詞:ハア詞