上しより初音の鼓と号給ふ其鼓は私が親私めは其鼓の子でござりますと語るにぞつとこはげ立騒心を押しづめムヽそなたの親は此鼓鼓の子じやといやるからは扨はそなたは狐じやのハツア成程雨の祈に二親の狐を取れ殺された其時は親子の差別も悲しい事も弁へなきまだ子狐藻を被程年もたけ鳥井の数も重れど一日親をも養はず産の恩を送らねば豕狼にも劣し故六万四千の狐の下座に着只野狐とさげしまれ官上りの願も叶はず親に不孝な子が有ば畜生よ野等狐と人間ではおつしやれ共鳩の子は親鳥より枝を下つて礼義を述烏は親の養を育返すも皆孝行鳥でさへ其通まして人の詞に通じ人の情も知狐何ぼ愚痴無智の畜生でも孝行といふ事をしらいで何と致しませうとはいふ物の親はなしまだも頼は其鼓千年功ふる威徳には皮に魂留つて性根入たは則親付添て守護するはまだ此上の孝行と思へ共浅間しや禁中に留置給へば八百万神宿直の御番恐れ有ば寄付れず頼も綱も切果しは前世に誰を罪せしぞ人の為に怨する者狐と生れ来るといふ因果の経文うらめしく日に三度夜に三度五臓を絞る血の涙火焔と見ゆる狐火は胸を焦する炎
上しより初音の鼓と号給ふ其鼓は私が親私めは其鼓の子でござりますと語るにぞつとこはげ立騒心を押しづめムヽそなたの親は此鼓鼓の子じやといやるからは扨はそなたは狐じやのハツア成程雨の祈に二親の狐を取れ殺された其時は親子の差別も悲しい事も弁へなきまだ子狐藻を被程年もたけ鳥井の数も重れど一日親をも養はず産の恩を送らねば豕狼にも劣し故六万四千の狐の下座に着只野狐とさげしまれ官上りの願も叶はず親に不孝な子が有ば畜生よ野等狐と人間ではおつしやれ共鳩の子は親鳥より枝を下つて礼義を述烏は親の養を育返すも皆孝行鳥でさへ其通まして人の詞に通じ人の情も知狐何ぼ愚痴無智の畜生でも孝行といふ事をしらいで何と致しませうとはいふ物の親はなしまだも頼は其鼓千年功ふる威徳には皮に魂留つて性根入たは則親付添て守護するはまだ此上の孝行と思へ共浅間しや禁中に留置給へば八百万神宿直の御番恐れ有ば寄付れず頼も綱も切果しは前世に誰を罪せしぞ人の為に怨する者狐と生れ来るといふ因果の経文うらめしく日に三度夜に三度五臓を絞る血の涙火焔と見ゆる狐火は胸を焦する炎
上しより初ツ音の鼓と号（なづけ）給ふ其鼓は私が親私めは其鼓の子でござりますと語るにぞつとこはげ立騒（さはぐ）心を押シしづめムヽそなたの親は此鼓鼓の子じやといやるからは扨はそなたは狐じやのハツア成ル程雨の祈（いのり）に二タ親の狐を取ラれ殺された其時は親子の差（しや）別（べつ）も悲しい事も弁（わきま）へなきまだ子狐藻（も）を被（かづく）程年シもたけ鳥井の数（かず）も重れど一日親をも養（やしな）はず産（うみ）の恩（おん）を送（おく）らねば豕（ぶた）狼（おゝかみ）にも劣（おとり）し故六万四千の狐の下座（げざ）に着（つき）只野狐とさげしまれ官（くはん）上りの願ンも叶はず親に不孝（ふかう）な子が有レば畜生（ちくしやう）よ野等（ら）狐と人間ンではおつしやれ共鳩（はと）の子は親鳥より枝を下カつて礼義を述（のべ）烏（からす）は親の養（やしなひ）を育返（はごくみかへ）すも皆孝行鳥でさへ其通リまして人の詞に通（つう）じ人の情も知ル狐何ンぼ愚痴（ぐち）無智（むち）の畜生（ちくしやう）でも孝行といふ事をしらいで何ンと致しませうとはいふ物の親はなしまだも頼は其鼓千年ン功（こう）ふる威徳（ゐとく）には皮（かは）に魂（たましゐ）留（とゞま）つて性根（しやうね）入たは則チ親付キ添（そふ）て守護（しゆご）するはまだ此上の孝行と思へ共浅間しや禁中（きんちう）に留（とめ）置キ給へば八百万神ン宿直（とのゐ）の御番恐（おそ）れ有レば寄リ付カれず頼も綱（つな）も切レ果しは前ン世に誰レを罪（つみ）せしぞ人の為に怨（あた）する者狐と生れ来るといふ因果（ゐんぐは）の経文（きやうもん）うらめしく日に三度夜に三度五臓（ざう）を絞（しぼ）る血の涙火焔（くはゑん）と見ゆる狐火は胸を焦（こが）する炎（ほのほ）

地色:語るに，ウ:語るに地色／ウ

ハル:騒ハル

色:押しづめ色

詞:ムヽ詞

地色:鳩の，中:鳩の地色／中

ハル:枝をハル

ウ:烏はウ

ウ:育ウ

ウ:鳥でさへウ

ウ:ましてウ

ウ:人のウ

色:知色

詞:何ぼ詞

地色:思，ハル::思地色／ハル:

キン:浅間しやキン

ウ:禁中にウ

色:給へば色

ウ:八百万神ウ

キン:恐れキン

ハル:頼もハル

中:切中

詞:前世に詞

地:五臓を，上:五臓を地／上

文弥:火焔と，ウ:火焔と文弥／ウ

入:胸を入

ウ:焦するウ

フシ:炎フシ