殿駿使殿
忠臣茨左衛門が妹の飛鳥あすか義経公の御隠家兄の方へしらせたかと此状が来た故うたがふての心じやの覚ない云訳いひわけをまだ〱としてゐられぬ疑ふよりは一思ひに殺して下され法眼殿とうらみ涙ぞ誠なる法眼始終しゞうを聞すまし以前の一通取より早くずん〱に引さき〱いつはりに命は捨まし女房を疑ふは未練みれんには似たれ共義経公へぬけめなき我忠節衆徒しゆと等が胸中けうちうさぐりし次手心引見る此にせ状引さき捨れば安堵あんどして自害じがいとゞまれ女房ととくる詞は春の雪うらみきへてなかりけりヤア法眼帰られしな面談めんだんと義経公奥の間より出させ給ひ鞍馬くらま山のよしみを忘れず一々の御厚志かうし祝着しうちやく詞にのべがたし兼て申だんぜし通今日の衆徒の評定ひやうぢやう委細いさいあれにて承知しやうちせりと御ぢやうにはつとかうべをさげ師の坊の命と云只ならぬ御方疎略そりやくなき心てい御存の上は身にあまる悦び此上や候べき武蔵坊は奥刕秀衡ひでひら方へ遣はされ御家臣すくなければ亀井駿河なんどがごとく思召されよと申詞の内使罷出佐藤四郎兵衛忠信殿君の御行衛を尋御出也とをし申さんやとうかゞふにぞ扨は無事にて有つるなこなたへ通せ対面たいめんせんと仰つたふる次の間へ法眼夫婦は立て行案内に連て入来る四郎兵衛忠信御座の間のこなたに出たへて久しき主君の顔見るも無念のあら涙指うつむいて詞なし大将御機嫌きげんなゝめならず汝に別れ爰かしこ鎌

地色:覚,ウ:覚地色/ウ

ハル:ゐられぬハル

上:疑ふよりは

ウ:殺して

フシ:法眼殿フシ

中:恨涙ぞ,ノル:恨涙ぞ中/ノル

ハル:涙ぞハル

地:法眼,ハル:法眼地/ハル

ウ:以前の

色:〱偽に

詞:偽に

地:自害を,ウ:自害を地/ウ

ハル:解るハル

ウ:恨も

フシ:なかりけりフシ

詞:ヤア

地:面談,ウ:面談地/ウ

フシ:出させ,ハル:出させフシ/ハル

地:鞍馬山の,中:鞍馬山の,ウ:鞍馬山の地/中/ウ

ウ:一々の

ハル:詞にハル

色:述

詞:兼て

地:御諚に,ハル:御諚に地/ハル

色:頭を

詞:師の

地色:思召,ウ:思召地色/ウ

ハル:申ハル

色:内使

詞:佐藤

地:仰,ハル:仰地/ハル

フシ:法眼フシ

ハルフシ:案内にハルフシ

中:入

ウ:四郎兵衛

ウ:御座の

ハル:主君ハル

ウ:無念の

フシ:あら涙フシ

中:指うつ

ハル:詞ハル

地色:大将,ハル:大将地色/ハル

色:斜

詞:汝に