退
退
坊に火をかけ火を上て聖天しやうでん山より無二無三にかけちらして勝利しやうりん今夜の勝手裏しゆりいさめ〱と云ければ薬医坊を打ふりそれは味方の思ふまゝつようして荒法橋が手勢を投退なげのけかけちらしまつしくらに討て出勝手の宮をぢん所として門をひつしと打ばいかにホヽウことはりにもとがめたり其時は八王寺金剛蔵王こんがうざわうの袖ふる山みねに上つてまつ下りに引つめさし詰射ならばそこもたまらず逃うせんヲヽ其時はまだ咲ぬ桜の木隠こがくれ枝隠れ木の間〱のほそ道を逃先は天皇橋大将軍の多宝塔たほうたう時に取ての角櫓すみやぐら追くる衆徒を待かけて射かくる矢先は扨いかに小ざかしし荒法橋何条射共落人が持たる矢だねは数知たり引ては寄ては引矢種つくさせ討何の手間隙入べきぞ恐れな音すな用意ようゐせよいそふれかた〲むかしの軍有し時おと下つてまひかなづ是反閉へんばいの始也いざ勝軍の義を取踏々たう〱登路とろふみならす左に七足右七足左右合して十四足はた〱はつしと踏治ふみおさめサア行すゝめと逸参いつさんにいさみ足して立帰る横川の禅師覚範が勇氣ゆうきまれなるうぐひすの声なかりせば雪きへぬ山里いかで春をしらまし春は来ながら春ならぬ九郎判官義経を御なぐさめ琴三味ことしやみ河連法眼かはづらほうげん奥座おくしきじめも世上忍び駒ことぢに立る雁金も春を見捨ぬこゝろざしげに頼もしきもてなし也今朝より他出の法眼心に一もつ有顔にゆう々と立帰れば妻の飛鳥あすかは出向ひヲヽことない

地:坊に,ウ:坊に地/ウ

コハリ:上てコハリ

ハル:聖天山よりハル

ナヲス:無二,ウ:無二ナヲス/ウ

ウ:今夜の

フシ:いさめフシ

地色:薬医坊,ウ:薬医坊地色/ウ

色:頭を打

詞:それは

地:ホヽウ,中:ホヽウ,キン:ホヽウ地/中/キン

ハル:咎たりハル

中:其,ウ:其中/ウ

ウ:金剛蔵王の

ハル:袖ハル

色:逃

詞:ヲヽ

地:咲ぬ,ハル:咲ぬ地/ハル

キン:桜のキン

色:枝

ウ:木の間

ウ:逃

ハル:天皇橋ハル

ウ:大将軍の

ウ:時に

ウ:追くる

色:扨

詞:小ざかしし,ノリ:小ざかしし詞/ノリ

地:天武の,ハル:天武の地/ハル

中:時

キン:乙女キン

色:是

詞:反閉の

地:い,ハル::い地/ハル:

ウ::横ウ:

ウ:希なる

二上リ:鶯の,歌:鶯の,ウ:鶯の,合:鶯の二上リ/歌/ウ/合

ハル:声,中:声,ウ:声ハル/中/ウ

ハル:雪ハル

キン:消ぬキン

ウ:山里

下:いかで

ウ:春を

ウ:しらまし

ハルフシ:春は,ナヲス:春はハルフシ/ナヲス

中:春ならぬ

地:九郎,中:九郎地/中

ウ:判官

ウ:御慰の

ハル:河連法眼がハル

中:奥座敷

ウ:音じめも

フシ:忍び駒フシ

ウ:柱に

ハル:雁金もハル

フシ:げにフシ

地:今朝より,ウ:今朝より地/ウ

ハル:一物ハル

フシ:悠々とフシ

地色:妻の,ハル:妻の地色/ハル

中:出向ひ

詞:ヲヽ