忿殿
忿殿
丈六ぢやうろく忿怒ふんぬの御かたちも花にやはらぐ吉野山のきかすみにうづもれて殊勝しゆせうさまさる蔵王ざわうだう桜はまだし枝々のこずへさびしき初春しよしゆんの空一衆徒しゆと評定ひやうぢやう知行ちぎやうの百姓等おひげちりはき掃除さうぢ霊験れいげんあらたな仏より衆徒しゆとばちをやおそれけん名計は静といへどいそぐ道忠信が介抱かいはうにて義経の御跡をやう〱爰にしたひ来て弥生やよひならばと云ながら見渡けいも吉野山百姓共口々に何うつくしい京女郎花見にはまだ早いなア何の花見で有ぞい男と女と二人連腹がはらみでしやうことなふついとしてござつたかととひかけられてアヽいやそんな者てなし河連法眼かはつらほうげん殿へ用事有て参る者是からどふいきますと皆迄聞ず早合点がてんヱヽこん妾奉公てかけぼうこうにやらしやるのヲいかしやればよい仕合河連法眼かはづらほうげん様といふは此一山の衆徒頭しゆとがしら野中は立ふとふせふとまゝな上に女房持て魚や鳥はくひ次第じだらく坊主の様なれど妻帯さいたいといへばかくがおもいどふぞ首尾しゆびして仕合さしやれアこな様は目高じやのガ其法眼様には太切なおきやくでもござりますかイヤそんな事は知ませぬ毎日こと三味線しやみせんにぎやかなとは聞ましたコレ此道をかういてこつちやの方が子守こもり明神女の参らにやならぬ所それより手前の一筋道左の方につゐ見へる大きな門の有所とおしへに静があい〱〱忝ふござんすと氣のせく道をとつかはと打連〽てこそ急行早参会さんくはい喚鐘よびがねに山しな法橋ほつきやう無道ぶだうてきの一字をかうむ

地:丈六,ハル:丈六地/ハル

中:蔵王堂

ウ:桜は

ハル:初春のハル

ウ:一山の

ウ:お髭の

フシ:衆徒のフシ

地:名計は,中:名計は地/中

ハルフシ:静とハルフシ

中:急ぐ

ウ:忠信が

ウ:義経の

ハル:御跡をハル

長地:漸,ウ:漸長地/ウ

ウ:弥生ならばと

中:云ながら

ウ:見渡す

フシ:吉野山フシ

地:百姓共,ハル:百姓共地/ハル

色:口々に

詞:何と

地色:問かけられて,ハル:問かけられて地色/ハル

色:アヽ

詞:河連法眼殿へ

地色:皆迄,ハル:皆迄地色/ハル

色:早合点

詞:ヱヽ

地色:大きな,ウ:大きな地色/ウ

ウ:教に

ウ:忝ふ

ハル:氣のハル

ウ:せく

ヲクリ:打連ヲクリ

ハルフシ:早ハルフシ

中:喚鐘

ウ:山科の

色:法橋坊

ウ:無道