殿姿
殿姿
あまりは此見ぐるしきあばらやを玉のうてなと思召ての御住居朝夕の供御ぐご迄も下々と同じやうにさもしい物夫さへ君の心では殿上てんじやうにての栄花ゑいぐは共思ふておくらしなされしに知盛お果なされてはしづがふせやに御身一つ置奉る事さへもならぬ様に成果てついには此浦の土と成給ふかや上もなきお身の上に悲しい事の数々がつゞけばつゞく物かいのとくどき立〱身もうく計歎しがアヽよしなきくやみごと御覚悟かくごいそがんと涙ながら御手を取なく〱〽浜辺に出けれどいと尋常じんじやうなる御姿此海にしづめんかと思へば目もくれ心もくれ身もわな〱とぞふるひける君はさかしくましませど死る事とは露しり給はずコレのふ乳母うば覚悟かくごといふていづくへ連て行のじややヲヽそふ思召はことはりコレよふお聞遊ばせや此日の本にはな源氏の武士はびこりておそろしい国此波の下にこそ極楽浄土ごくらくじやうどといふて結構けつかうな都がござります其都にはばゞ君二位の尼御を始平家の一門知盛もおはすれば君もそこへ御幸みゆき有て物うき世界せかいくるしみをまのがれさせ給へやとなだめ申せば打しほれ給ひアノ恐ろしい波の下へ只一人行のかやアヽ勿躰もつたいない此お乳がうつくしうそだて上たる玉躰ぎよくたいをあのなん〱たる千尋ちひろそこへやりまして何と身もよもあられうぞ此おもお供するいとしかはいのやしなひ君何とお一人やられうぞ夫なら嬉しいそなたさへいきやるならばいづくへなり共行わいのヲヽよふ

ウ:玉の

ハル:御住居ハル

ウ:朝夕の

中:供御迄も

詞:下々と

地色:知盛,ウ:知盛地色/ウ

ハル:御身ハル

ウ:置

ウ:ならぬ

上:終には

中:成

フシ:給ふかやフシ

地:上も,ウ:上も地/ウ

ハル:悲しいハル

上:つゞけば

フシ:くどき立〱身フシ

キン:〱キン

中:身も,ノル:身も中/ノル

ハル:歎しがハル

詞:アヽ

地色:涙ながら,ハル:涙ながら地色/ハル

中:御手を

フシ:なく,ヲクリ:なくフシ/ヲクリ

ユリ:〱ユリ

ハル:出けれどハル

ウ:いと

ウ:此

上:思へば

スヱ:身もスヱ

クル:〱クル

中:ふるひける

地色:君は,ウ:君は地色/ウ

ウ:死

ハル:しりハル

色:コレ

詞:覚悟

地色:なだめ,ハル:なだめ地色/ハル

中:打しほれ給ひ

ウ:恐ろしい

ハル:行のかやハル

詞:アヽ

地色:夫なら,ハル:夫なら地色/ハル

詞:そなたさへ

地色:ヲヽ,上:ヲヽ地色/上