宿駿
がたい御仰私も此かいわいでは真綱の銀平迚人にしられてゐますれど高が町人今日はたらき必竟ひつきやう申さば竈将軍かまどしやうぐん鎖細ささいなことがお目にとまつて我々つれに御褒美ほうびの御詞冥めうが加に余る仕合殊に君を見覚へ奉るは八嶋へおもむき給ふ時渡辺わたなべ福嶋より兵船ひやうせん役にさゝれ拙者せつしやが手船も御用にたつし一度ならず此度もふしぎにお宿やど仕るもふかき御縁去によつてお為を存申上たきは北条が家来取てかへさば御大事一こくも早く御乗船じやうせん然るべしと云もあへぬに駿河次郎我々も其心此天氣にて御出船はいかゞあらんアヽそれをぬかつてよござりましよか弓矢打物はおまへ方のわざ舟と日和ひよりを見る事は舟どひ商売しやうばいきのふけふは辰巳たつみ夜半よなかには雨も上り明方には朝嵐にかはつて御出船にはひんぬきの上々日和数年すねんこうにて見置たと見すかす様に云けるは其道々としられける亀井六郎ずんど立ヲヽ銀平出かしたり其方が詞に付て雨の晴間はれま片時へんしも早く主君の御供仕らんと申上れば義経公船中の事は銀平がよろしくはからひ得させよと仰にはつとかうべをさげ只今も申幼少ようせうより舟の事はよく鍛錬たんれん仕れば御おくりの為拙者も手舟で須磨明石すまあかしの辺迄参らん元舟の有所は五町余りおきの方舟は則日吉丸思ひ立日が吉日吉じやうも雨具の用意ようゐを致し跡より追奉らん女房君を御

地色:我々,中:我々地色/中

ハル:冥加にハル

ハル:仕合ハル

詞:殊に

地:云も,ハル:云も地/ハル

色:次郎

詞:我々も

地:見透す,ハル:見透す地/ハル

フシ:其フシ

地:亀井,ハル:亀井地/ハル

ウ:銀平

色:出かしたり

詞:其

地色:主君の,ウ:主君の地色/ウ

ハル:申上ればハル

中:義経公

ウ:船中の

ウ:得させよと

ハル:仰にハル

色:頭を

詞:只今も

地色:元舟の,ウ:元舟の地色/ウ

ウ:舟は

ハル:吉丸ハル

ウ:我も

色:女房

ウ:君を