存る中君腰越より追かへされ鎌倉殿御兄弟御中不和と承はるより取物も取あへず都へ帰る道すがら土佐坊君の討手と聞夜を日についで堀川の御所へ今晩かけ付しに早都をひらかせ給ふと聞より是迄御跡したひ思ひがけなき静様の御難義を救ひしは我存念の届し所と申上れば御悦喜有我も当社へ参詣して今の働委しくも見とゞけたり鎌倉武士に刃向ふなとかたく申付たれど土佐坊討れし上からは其家来を忠信が討たる迚構なし今に始ぬ汝が手柄天晴〱取分て兄次信も我矢面に立て討死したるは希代の忠臣其弟の忠信なれば我腹心をわけしも同前今より我姓名をゆづり清和天皇の後胤源の九郎義経と名乗まさかの時は判官に成かはつて敵を欺き後代に名をとゞめよ是は当座の褒美迚家来に持せし御着長忠信にたびければはつと計に押戴頭を土にすり付〱土佐坊づれが家来を追ちらせしと有て御着長を下し給はる其上に御姓名迄給はるは生々世々の面目武士の冥加に叶ひしと天を礼し地を拝し悦び涙にくれければ判官重て我は是より九刕へ立越豊前の尾形に心を寄ん汝は静を同道して都にとゞまり万事宜しく計へと君は静に別れを惜み便もあらば音信んさらば〱と立給へば今が誠の別れかと立寄静を武蔵坊亀
存る中チ君腰越より追ツかへされ鎌倉殿御兄弟御中不和と承はるより取ル物も取あへず都へ帰る道すがら土佐坊君の討ツ手と聞夜を日についで堀川の御所へ今ン晩かけ付ケしに早都をひらかせ給ふと聞クより是迄御跡したひ思ひがけなき静様の御難義を救ひしは我存ン念ンの届し所と申上れば御悦喜有リ我も当社へ参詣して今の働委しくも見とゞけたり鎌倉武士に刃向ふなとかたく申付ケたれど土佐坊討タれし上からは其家来を忠信が討たる迚構なし今に始メぬ汝が手柄天晴〱取分ケて兄次信も我矢面に立ツて討死したるは希代の忠臣其弟の忠信なれば我カ腹心をわけしも同前今より我姓名をゆづり清和天皇の後胤源トの九郎義経と名乗リまさかの時は判官に成かはつて敵を欺き後代に名をとゞめよ是は当座の褒美迚家来に持タせし御着長忠信にたびければはつと計に押シ戴頭を土にすり付〱土佐坊づれが家来を追ツちらせしと有て御着長を下し給はる其上に御姓名迄給はるは生々世々の面目武士の冥加に叶ひしと天を礼し地を拝し悦び涙にくれければ判官重て我は是より九刕へ立越ヱ豊前の尾形に心を寄ん汝は静を同道して都にとゞまり万事宜しく計へと君は静に別れを惜み便リもあらば音信んさらば〱と立給へば今が誠の別れかと立寄ル静を武蔵坊亀
地:土佐坊,ウ:土佐坊地/ウ
ハル:堀川のハル
ウ:御所へウ
色:かけ付しに色
詞:早詞
地:我,ウ:我地/ウ
ハル:申上ればハル
中:御悦喜有中
中:悦喜中
詞:我も詞
地:今に,ウ:今に地/ウ
ハル:汝がハル
色:取分て色
詞:兄詞
地:今より,ウ:今より地/ウ
ウ:源のウ
ハル:義経とハル
ウ:成かはつてウ
ウ:敵をウ
中:とゞめよ中
ウ:是はウ
ハル:御着長ハル
フシ:忠信にフシ
地色:はつと,ハル:はつと地色/ハル
色:〱色
詞:土佐坊詞
地:御姓名,ハル:御姓名地/ハル
ウ:世々ウ
ウ:武士のウ
ウ:地をウ
フシ:悦びフシ
地色:判官,ハル:判官地色/ハル
色:重て色
詞:我は詞
地:汝は,ウ:汝は地/ウ
ハル:都にハル
ウ:万事ウ
長地:君は長地
ウ:別れをウ
ウ:便もウ
ウ:音信んウ
ウ:さらばウ
ウ:立ウ
ウ:誠のウ
ウ:立寄ウ
中:武蔵坊中
ウ:亀ウ