殿
殊に只今鎌倉の大老川越かはごへ太郎重頼しげより我君へ直談じきだん迚お次ひかへ罷いかゞはかひ申さんやと尋申せばけうの君心得ぬ事共や其川越太郎はみづからとは故有人土佐坊海野うんのが討手の様子しらさん為に来りしか何にもせよゑんあればくるしうなし通し申せ其むね君へも申あげん次手に武蔵もお目見へと座を立給へば武蔵坊討手とはうまし〱我等が世盛よざか忝い土佐坊でも海野でもたつた一のみつかみ首引ぬいて参らんとかけ出すを静は押とめソレそれがモウわるいお上の御も待ずおとましの坊様やとむりに引立みだいとともに義経公のおはします奥の〽殿へぞ急ぎ行程なく入来る武士ものゝふは鎌倉評定ひやうぢやうの役人川越太郎重頼大もんゑぼしさはやかにとしも五十いそじ分別盛ふんべつざかり廣庇ひろびさしに入来れば御九郎判官御しやうぞくあらためられしづ〱と立出給ひヤアめづらしや重頼兄頼朝にも御かはりなく百候ひやくこうつゝがなしやと仰にはつとかうべをさげ先は御堅躰けんていはい恐悦至極きやうゑつしこく右大将にも安全あんせん渡らせられ諸大名も毎日の出勤しゆつきん賢慮けんりよやすんじ下さるべしと申れば義経公シテ其方は海野土佐坊同役どうやくにてのほりつらん但は外に用事有やと尋に重頼さればの義君に御しん三がでう々お尋申上返答へんたうによつて海野土佐坊と同役おそれながら過言くはごんは御赦免しやめんなされ尋る子細しさい返答へんたうと申上ればホ面白おもしろし此義経に不しんあらば兄頼朝

地:いかゞ,ウ:いかゞ地/ウ

ハル:尋ハル

中:卿の君

詞:心得ぬ

地:次手に,ウ:次手に地/ウ

フシ:座を,ハル:座をフシ/ハル

色:武蔵坊

詞:討手とは

地:首,ウ:首地/ウ

ハル:かけ出すをハル

色:押留

詞:ソレ

地色:むりに,ウ:むりに地色/ウ

ハル:義経公のハル

ヲクリ:奥のヲクリ

地色:程,ウ:程地色/ウ

ハル:鎌倉ハル

ウ:川越

中:重頼

ウ:大紋

ウ:としも

ハル:分別盛ハル

フシ:廣庇にフシ

地:御主,ウ:御主地/ウ

ウ:改められ

ハル:しづ〱ハル

中:給ひ

詞:ヤア

地:恙なしや,ウ:恙なしや地/ウ

ハル:仰にハル

色:はつと

ウ:頭を

詞:先は

地:賢慮,ウ:賢慮地/ウ

ハル:申上ればハル

中:義経公

詞:シテ

地色:用事,ハル:用事地色/ハル

色:さればの

詞:君に