便
便
ヱヽ小盗人こぬすびとた物氣が付いでとられたといへばみだいも涙ぐみ世を忍ぶ身の上は何かにあんじがたへぬ扨も〱なさけなき親子の身では有ぞいのと内は歎にくもれ共外は春めく物売声すげ笠かゞ笠ゆす〱一打かたげ笠をお召なされぬかと門口より指覗さしのぞけばヲヽとでもない尼の内に菅笠すげがさが何でいろうさんなわろじやとしかられてイヤお氣づかひな者でなしわたしでござると笠取てはいるを見れば小金吾武里こきんごたけさとみだい所は飛立此間は便たよりも聞ずどふかかうかと案ぜしにサア〱爰へと有ければ小金吾も手をさげて先はみだい所にも御堅勝けんしやうホヽウ若君も御機嫌きげんよき御顔ばせをはい拙者せつしやも大ゑつ仕るいか様にも今日は先重盛公の御祥月しやうつき御命日なれば御装束しやうぞくあらため御回向ゑかうをなされしよなと佛間に向ひ手を合せ此君お一人ましまさぬ故御一門はいふに及ず我々迄も憂艱苦うきかんくしば涙にくれけるが拙者せつしやめも御見つぎの為思ひ付たる笠商売しやうばい前髪立の此小金吾何がぬ商売なれば御推量すいりやう下さるべし扨先上たきは主君惟盛卿の御身の上いまだ御存命ぞんめいにて高野かうや山に御入とたしか都のうはさ何とぞ拙者も若君のお供をして高野にのぼり御親子の御対面たいめんつには小金吾もふたゝび主君の御顔をはいし申たき願ひ夫たび用意ようゐ致し只今参り候と聞よりみだいも夢見しごとく何我つまの高野とやらんに生ながらへてご

地:いへば,ハル:いへば地/ハル

中:涙ぐみ

ウ:世を

ウ:扨も

ハル:親子のハル

スヱ:歎にスヱ

地:外は,ウ:外は地/ウ

ハル:物売ハル

詞:すげ笠

地:ゆす〱,ウ:ゆす〱地/ウ

ウ:笠を

ハル:なされぬかハル

フシ:門口よりフシ

詞:ヲヽ

地:うさんな,ウ:うさんな地/ウ

ハル:呵られてハル

詞:イヤ

地:わたしで,ウ:わたしで地/ウ

ウ:はいるを

ハル:小金吾ハル

ウ:みだい所は

中:飛立計

ウ:此

ウ:かうかと

フシ:有ければフシ

地:小金吾も,ハル:小金吾も地/ハル

色:手を

詞:先は

地:佛間に,ハル:佛間に地/ハル

中:此

ウ:ましまさぬ

ハル:いふにハル

ウ:我々迄も

スヱ:暫しスヱ

中:くれけるが

詞:拙者めも

地:聞より,ハル:聞より地/ハル

ウ:何

ハル:ながらへてハル