主の尼と指荷ひ庵の内に立帰りコレ申みだい様わしが一日たが〱するを笑止がつて荷ひの片端お手伝ひなされそれ〱お肩がいたさふな下々のする業は夢に見もなされまい時代迚おいとしぼやアレ何聞てやら六代様のにこ〱と笑ふてじやよふおるすなされたなふとほた〱いふてあしらへばみだい所も打しほれしりやる通夫の惟盛様御一門と諸共安徳天皇を供奉し都を開き給ひしより此庵に親子諸共永々の世話になるもそなたが昔お館に奉公仕やつた少の所縁惟盛様も西海の軍に海へ沈みお果なされた共又生てござる共様々の噂なれ共都をお立なされた日を御命日と思ふて居る殊にけふは舅君重盛様の御命日なれば心計の香花取て阿伽の水も備へん為手づから水を汲ました取分此月はお祥月昔の形で回向せばせめて仏へ追善とけふの細布身せばなるさもしき小袖ぬぎ捨て卯の花色の二つ襟うきに憂身の数々は十二単の薄紅梅思ひの色や。緋の袴。いでそよ元は大内に宮仕へせしはれの絹引繕ひ蒔絵すつたる手箱より重盛公の絵像を取出しさら〱と仏間にかけて手を合せ小松の内府浄蓮大居士佛果ぼだいと回向してコレ六代そなたの為には祖父君稚けれ共平家の嫡流よふ手を合して拝みやいの取わけて此絵像親子御迚惟盛様に生うつしほんに
主ジの尼と指荷ひ庵の内に立帰りコレ申みだい様わしが一チ日たが〱するを笑止がつて荷ひの片端お手伝ひなされそれ〱お肩がいたさふな下々のする業は夢に見もなされまい時代迚おいとしぼやアレ何聞てやら六代様のにこ〱と笑ふてじやよふおるすなされたなふとほた〱いふてあしらへばみだい所も打しほれしりやる通リ夫の惟盛様御一チ門ンと諸共安ン徳天皇を供奉し都を開き給ひしより此庵に親子諸共永々の世話になるもそなたが昔お館に奉公仕やつた少シの所縁惟盛様も西海の軍に海へ沈みお果なされた共又生キてござる共様々の噂なれ共都をお立なされた日を御命日と思ふて居る殊にけふは舅君重盛様の御命イ日なれば心計の香花取ツて阿伽の水も備へん為手づから水を汲ました取リ分ケ此月はお祥月昔の形で回向せばせめて仏へ追善とけふの細布身せばなるさもしき小袖ぬぎ捨て卯の花色の二つ襟うきに憂身の数々は十二単の薄紅梅思ひの色や。緋の袴。いでそよ元は大内に宮仕へせしはれの絹引繕ひ蒔絵すつたる手箱より重盛公の絵像を取出しさら〱と仏ツ間にかけて手を合せ小松の内府浄蓮大居士佛果ぼだいと回向してコレ六代そなたの為には祖父君稚けれ共平家の嫡流よふ手を合して拝みやいの取わけて此絵像親子御迚惟盛様に生キうつしほんに
ウ:主のウ
フシ:庵のフシ
詞:コレ詞
地色:下々の,中:下々の地色/中
ハル:なされまいハル
ウ:時代迚ウ
色:おいとしぼや色
詞:アレ詞
地:ほた〱,ハル:ほた〱地/ハル
ウ:みだい所もウ
入:打しほれ入
詞:しりやる詞
地色:惟盛様も,中:惟盛様も地色/中
ハル:お果ハル
ウ:又ウ
ウ:ござる共ウ
中:噂なれ共中
詞:都を詞
地:せめて,ハル:せめて地/ハル
中:追善と中
ウ:細布ウ
ウ:さもしき,ヲクリ:さもしきウ/ヲクリ
キン:卯のキン
ウ:うきにウ
ハル:数々はハル
キン:十二単のキン
冷泉:色や,合:色や冷泉/合
合:。合
合:袴合
合:。合
ウキン:いでウキン
ハルフシ:宮仕へハルフシ
中:はれの中
ナヲス:引繕ひナヲス
地:蒔絵,ウ:蒔絵地/ウ
ハル:重盛公のハル
ウ:絵像をウ
本フシ:仏間に本フシ
中:手を中
ウ:小松のウ
ウ:佛果ウ
フシ:ぼだいとフシ
詞:コレ詞