殿退調姿
道に云まぐたくみと知ても勅命ちょくめいといふに返答へんとうおそれ有只はつ〱と計也たまり兼て武蔵坊ずつと出コレサ左大将殿とやら王様は天下のかゞみ無理むりいはしやれば天下中が皆無理いふが合点か無理が有ならそばに居る公家くげの役でなぜしづめぬ大敵にもひるまぬ大将よふ一ごんでやりこめたなア云負いひまけさせては此腹の虫が堪忍かんにんせぬサア出なをしてあやまりやと腹立儘の傍若無人ぼうじやくぶじん義経はつたとにらませ給ひやおれ弁慶高位かうゐくはんたいしての悪最前さいぜんより無礼の段々言語道断ごんごどうだんそこ立され我目通りへは叶はずと以ての外の御げんにせんかたもなく立なくあやま猪熊ゐのくまよい氣味とほくそづくを目もかけず朝方に打向ひ日比の懇望こんほうかへつてあたとなる鼓申ねば君にそむく申受れば兄に敵対てきたいめいそむか了簡りやうけんと有院宣の鼓たとへ拝領はいれう申ても打さへせねば義経が身のあやまにもならぬ鼓拝領申奉ると鼓を取退出たいしゆつす御手の中に朝方が悪事を調しらべのしめくゝりげにも名高き大将と末世まつせあを篤実とくじつつよくゆうなる其姿一度にひらく千桜栄へ久しき〽君が代や蘭省らんしやうの花の時錦帳きんちやうの中にかしづかれし小松三位惟盛これもり御台みだい若葉の内侍ないし若君六代御前平家都を落しより今は蘆山ろさんかくれ里嵯峨さが草庵さうあんに親子諸共身を忍びしなれぬわざも仏のきやうと谷のながれを水おけ

ウ:いふに

フシ:只フシ

地:たまり,ハル:たまり地/ハル

イロ:ずつとイロ

詞:コレサ

地:サア,ハル:サア地/ハル

ウ:義経

色:にらませ

詞:やおれ

地:以ての,ハル:以ての地/ハル

ウ:せんかたも

フシ:誤り,カヽリ:誤りフシ/カヽリ

ウ:猪熊

中:目も

ハル:朝方にハル

色:打向ひ

詞:日比の

地:拝領,ハル:拝領地/ハル

中:退出

ウ:御手の

ハル:しめくゝりハル

ウ:実も

中:大将と

ウ:末世に

ウ:強

ハル:其ハル

ウ:一度に

色:千本桜

ウ:久しき,三重:久しきウ/三重

上:君が

地:蘭省の,ハル:蘭省の地/ハル

ウ:かしづかれし

ウ:小松

ウ:惟盛の

ウ:若君

中:落し

ウ:今は

ウ:北嵯峨の

スヱ:親子,ハル:親子スヱ/ハル

中:身を

ウ:しなれぬ

小ヲクリ:谷の小ヲクリ