公募研究4「千田是也と同時代演劇―千田資料に関する調査・研究」

    研究代表者 阿部由香子(共立女子大学文芸学部教授)
    研究分担者 宮本啓子(白百合女子大学国語国文学科非常勤講師)
          寺田詩麻(聖学院大学人文学部非常勤講師)
          秋葉裕一(早稲田大学創造理工学部教授)

 ○研究成果概要(平成27年度)
1)伊藤道郎関連資料のデジタル化
 演劇博物館の貴重な千田是也コレクションの中から、ほんの一部分にすぎないが、仮整理の段階で「J」に分類されている伊藤道郎関連の資料の内容を把握し、整理、デジタル撮影を進めた。「J資料」は仮整理の段階で、写真アルバム、スクラップブック、直筆原稿、著作資料、書簡類、プログラム・パンフレット類、手帳・サブノート、などのように形態による分類がされているものと、アーニーパイル劇場関連、オリンピック関連、ファッション関連、パシフィック映画関連、南洋パルプ関連、のように資料内容によって分類されているものがある。
 今回、2年間にわたる研究期間でデジタル撮影したものは以下の通りである。
①写真アルバム27冊分(J1、J2、J3、J4、J5、H31)
②アーニーパイル関連資料(J23)
③書簡類(J28)
 写真、書簡類については、ある程度定型の形態である資料が多いが、J28の「アーニーパイル関連資料」は、直筆原稿、スケッチメモ、劇場内文書、プログラムなど雑多な形態の多様な資料群である。これらを印刷冊子と直筆資料を分けるような既存の資料分類に従ってバラバラに整理保存してしまうと、資料の有機的なつながりが断たれてしまう可能性がある。しかし、資料内容に従った番号付けとデジタル撮影を最初に行うことで、今後は画像データベースとして展開していくことが可能になったといえよう。
 また、写真資料については伊藤道郎のプライベート写真、渡欧後の交友関係や足跡をたどる手がかりとなる資料、舞踊家としての仕事、演出家・振付家としての仕事を検証するための資料など横断的に閲覧することが可能になった。

2)伊藤道郎関連資料の重要性
 今回、デジタル化した資料は、伊藤道郎の国内外での仕事をより具体的に検証するための手がかりとなりうるに違いない。特に1930年代以降、アメリカでの活躍を示す資料とともに、1941年~43年の収容所生活を送っていた時期の書簡、1946年にアーニーパイル劇場の芸術顧問として迎えられた後にそれまでの集大成のような舞台を生み出していく制作資料など、後半生の仕事を評価する際に意味を持つものが多く存在する。それは同時に1930年代~40年代の日本の舞台芸能を捉えなおす上でも有意義な資料であるといえよう。