公募研究3「プロジェクション・メディアの考古学:幻燈資料の整理・公開とデジタルデータを活用した展示・創作」

    研究代表者 大久保遼(東京藝術大学社会連携センター特任助手)
    研究分担者 草原真知子(早稲田大学文化構想学部教授)
          向後恵里子(明星大学人文学部准教授)
          上田学(日本学術振興会特別研究員PD)
          遠藤みゆき(東京都写真美術館学芸員)
          

 ○研究成果概要(平成27年度)
 2015年4月から8月に開催された「幻燈展:プロジェクション・メディアの考古学」および、『幻燈スライドの博物誌:プロジェクション・メディアの考古学』(青弓社、2015年)の刊行を通じて、(1)幻燈の販売目録とスライドの対照の必要性、(2)幻燈と同時代の他の視覚文化との連関の解明、以上の2点が今後の課題であることが明らかになった。

(1)については、演劇博物館に所蔵されている販売目録と、館蔵のスライドに関連する草原真知子氏所蔵の販売目録のデジタル化を進めた。また館蔵資料のうち海外のスライドに関しては、Magic Lanternの代表的なデータベースであるLUCERNAの情報との比較を行った。これにより、例えば「画家と楽士」「写真家と子供」と記録されていた館蔵スライドはともにイギリスのTheobald & CO.により1905年に制作されたものであることが判明した。販売目録やデータベースとの対照により新たに明らかになった情報は、随時演劇博物館の幻燈データベースに追加登録する予定である。

(2)については、まず11月20日に遠藤みゆき氏による報告「中島待乳の幻燈制作」が行われ、写真家でもあった待乳の幻燈制作や、画学生だった秋尾園がスライドの下絵を描いていたことが明らかにされ、幻燈と写真や版画、油絵といった視覚文化との連関が指摘された。また1月12日にはエルキ・フータモ氏による報告「スクリーン・プラクティス:メディア考古学的視点から」が行われ、幻燈が映像だけでなく音楽やパフォーマンスを伴っていたこと、その観点からすると、同時代のムービング・パノラマにおける口上や「Bänkelsang」と呼ばれるブロードサイド・バラッドの絵解きなどの大衆文化と関連しているとの指摘がなされた。