公募研究2「無声映画の上演形態、特に伴奏音楽に関する資料研究」

    研究代表者 長木誠司(東京大学大学院総合文化研究科教授)
    研究分担者 紙屋牧子(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
    白井史人(東京大学大学院総合文化研究科博士課程) 
    山上揚平(東京藝術大学音楽学部非常勤講師)

 ○研究成果概要(平成26年度)
 演劇博物館所蔵の無声映画の伴奏に使用された楽譜資料を対象とし、大正~昭和初期の映画上演の実践を、特に音楽面に着目して明らかにすることが本研究の目的である。2014年11~12月にかけて所蔵資料の番号付け・OPP袋への仕分けを行った。さらに、京都文化博物館、神戸映画資料館での調査・研究者との情報交換(2014年12月26日~29日)を経て、研究成果中間報告会(2015年2月4日)を行い、本資料の意義と活用の可能性を検討した。
 研究分担者・白井、紙屋、研究協力者・柴田康太郎を中心とした調査で、資料の概要が明らかとなった。当資料は、1920年代の半ばから1930年代初頭にかけて、無声映画の伴奏に用いられた一まとまりの楽譜コレクションである。署名と所蔵印から、品川の日活直営の「娯楽館」が所蔵していた伴奏音楽用パート譜であり、平野行一(別名はキンレイか)という人物が主に使用していたと考えられる。本年度は、800点を超す全資料のナンバリングを終え、以下の主要曲集の仮目録を作成した。

  1. 無題(仮名称:ヒラノ伴奏曲ライブラリー)の手稿伴奏曲集、パート譜、110点程度(HIRANO KINREIという印入り)…仮資料番号A-3、A-4、B-4
  2. 「Kino Music 日活楽譜」、未出版の伴奏曲集、パート譜、34点…仮資料番号B-8
  3. 「Small Orchestra」、国内出版の伴奏曲集、パート譜、25点(東京スモール・オーケストラ楽譜会、1924年)…仮資料番号B-3
  4. 「Cinema Inc. Series」「Berg’s Inc. Series」、アメリカ出版の伴奏曲集、パート譜、113点、(Belwin社、1910年代後半~1920年代前半に出版)…仮資料番号A-5
  5. 特定の映画への選曲(仮名称:ヒラノ選曲譜)、パート譜、64点(K.HIRANOという署名入り五線紙)…仮資料番号A-1
  6. 日活からの配給譜、パート譜、20点…仮資料番号 B-1

 主要資料館の専門家との面談によれば、当時の使用譜がまとまって発見されたのは国内初である。各曲集の内容に関して分析を開始した結果、佐々紅華、松平信博ら、当時の言説で言及される作曲家の実作も多く含まれていることが分かった。さらに、当時のアメリカで使用されていた主要曲集の一つも含まれており、海外の実践との繋がりが明らかとなってきた。また、既存資料では欠けていたピアノパートなどの伴奏部分の分析を通して、和声面での和洋折衷的特徴や楽器編成の検討を行った。