テーマ研究8「伎楽面の総合的研究及び復元模刻制作」

    研究代表者 籔内佐斗司(東京藝術大学大学院美術研究科教授)
    研究分担者 仲裕次郎(東京藝術大学大学院美術研究科非常勤講師)
          鈴木篤(東京藝術大学大学院美術研究科教育研究助手)
          中野志野(東京藝術大学大学院美術研究科教育研究助手)

 ○研究成果概要(平成25年度)
 今回の研究においては、正倉院蔵・伎楽面「波羅門」の熟覧調査を行うことはできなかったが、写真測量による等高線図といった既存資料を用いて、推定される当時と同じ材料、技法にて実際に当初の姿を再現したことに大きな意味を持つ。3Dデータを用いて導き出した推論が、制作という実技を通じて確信へと変わることこそが、本研究のテーマである総合的研究の本質であると我々は考えている。
 今回の制作作業においては、1972年発行の『正倉院の伎楽面』に掲載されている等高線による測量図(正面、右面、左面)を参考にした。しかしこれらの図は模刻に必要となる木取りの向きとは異なるため、今回この等高線図を用いて、一旦コンピュータ上で3Dモデル化を行うことで目的に沿った図面の制作を試みた。
3D化の手法としては、まず断面図をPC上でトレースすることによって、ラスター情報をベクター化した後、断面線のそれぞれの線に対して高さ情報を与え(線間2.5mm)、メッシュ化することで、正面、右面、左面三種類の3Dモデルを作成した。さらにこれらのデータを統合することによって、一体化した3Dモデルを作成した。これらの作業によって、伎楽面「波羅門」は任意の視点で表示し、木取りに合わせた必要な図面を作成することが可能になった。
 また入手した写真から頭頂部、顎部の部分に木芯が通っていることが確認されるため、桐の丸太から木取りを確定させ、また3Dデータから仮想的に木目を生成し、写真で見られる木目に近付くことが確認できた。そのためデジタルデータから必要に応じた寸法や図を用いることで効率良く彫刻作業を進めることが可能になった。また実物では欠損している部分については、今回当初復元を目指すため、形状を復元した。
 彫刻作業の後、さまざまな検討を加え彩色作業を行った。全体に4層にわたる緑土地を塗り、その上に目、口部分に鉛白、銀泥を施し完成とした。
 今までにも復元した伎楽面の事例は多く見られるものの、今回の大きな特色としては、既存の断面図といった資料から3Dモデル化したことである。このことによって模刻の幅は大きく広がることになり、今後の伎楽面の模刻においても適用できる手法であり、ひとつのケーススタディとしてもたいへん貴重である。