テーマ研究6「演劇研究基盤整備:舞台芸術文献の翻訳と公開」

    研究代表者 秋葉裕一(早稲田大学理工学術院教授)
    研究分担者 藤井慎太郎(早稲田大学文学学術院教授)
          平林宣和(早稲田大学政治経済学術院准教授)
          宮信明(早稲田大学演劇映像学連携研究拠点研究助手)

 ○研究成果概要(平成25年度)
 2013年度は、1920年代の「歴史アヴァンギャルド」における理論や実践の数々が、1930年代という不況と戦争の時代において、いかなるかたちで権力に抵抗しつつ、雲散霧消していったのかという問題意識の下で、ドイツ語、ロシア語、イタリア語、フランス語における1930年代の演劇論・舞踊論の翻訳を行った。これらは2011年度から2012年度にかけて「1938年問題研究会」として行われた全6回の公開研究会の成果をベースとしている。ここでは、19世紀末から20世紀前半の演劇史をより大きなパースペクティブで概観するために政治学や歴史学の知見も動員し、現代演劇の分析にも応用可能なテクストの再検討と翻訳が目指された。
具体的な成果物としては、以下37件の外国文献の翻訳、及び15件の解題が挙げられる。

◆ヨーロッパの舞台表象の変容・転位としての〈1938 年問題〉
【解題】谷川道子「舞台芸術文献の翻訳と公開:ヨーロッパの舞台表象の変容・転位としての〈1938 年問題〉」

(ドイツ編)
【解題】谷川道子「無名のヘラクレスたち:反ファシズム闘争の光と影―ペーター・ヴァイスの遺作『抵抗の美学』のために」
フリードリヒ・ヴォルフ「ファシズムのドラマトゥルギー、反ファシズムのドラマトゥルギー」( 1934) 訳:本田雅也
エルンスト・トラー「劇作家の作品について」(1934) 訳:本田雅也
フリードリヒ・ヴォルフ「ドイツ・ファシズムの劇文学」(1936) 訳:本田雅也
エルヴィーン・ピスカートア「過去の教訓と未来の課題について」(1934) 訳:萩原健
ベルンハルト・ライヒ「ドイツのアンチファシズムの劇作の方法論について」(1937) 訳:萩原健
【解題】荻原健「ソ連にいたドイツからの亡命者たち―トラー、ヴォルフ、ピスカートア、ライヒ」
オスカー・シュレンマー「今日の芸術状況について」(1932) 訳:柴田隆子
オスカー・シュレンマー「ピスカートアとモダン・シアター」(1928)訳:柴田隆子
オスカー・シュレンマー「素材からの造形」(1930) 訳:柴田隆子
クルト・ヨース「タンツテアターの言語」(1935) 訳:柴田隆子
【解題】柴田隆子「空間論・身体論・舞踊論の位相からみた『演劇』表象の転位―シュレンマー、ヨース」
第二回ドイツ舞踊家会議「舞踊形態=舞踊言語=舞踊記譜 アンケート」〔抜粋〕(1928) 訳:古後奈緒子
ルドルフ・フォン・ラバン「芸術作品としてのコロス」(1928)訳:古後奈緒子
ルドルフ・フォン・ラバン「舞踊のコンポジションと記譜舞踊」(1928)訳:古後奈緒子
ルドルフ・フォン・ラバン「ドイツのタンツビューネ ―前史と展望―」(1936) 訳:古後奈緒子
ルドルフ・フォン・ラバン「祝祭における祭儀教育」(1920)訳:古後奈緒子
マリー・ウィグマン「現代の舞踊作品」(1925) 訳:古後奈緒子
マリー・ウィグマン「新しい芸術舞踊の本質」(1936) 訳:古後奈緒子
【解題】古後奈緒子「抵抗と順応のドイツ・モダンダンス小史―ラバンとヴィグマン」

(ロシア編)
【解題】鴻英良「芸術家の抵抗とそのエチカ」
P.M. ケルジェンツェフ「無縁の劇場」(『プラウダ』紙、1937 年12 月17 日) 訳:上田洋子
1937 年12 月22、23、25 日の国立メイエルホリド劇場劇団員全体集会における論文「無縁の劇場」に関する討議 訳:平松潤奈、上田洋子、鴻英良
クルト・ケルステン「マクシム・ゴーリキー:勝利の予言者」(1936)訳:柴田隆子
ベルンハルト・ツィーグラー「マクシム・ゴーリキーの遺産」(1937)訳:柴田隆子

(イタリア編)
【解題】太田岳人「ヨーロッパの舞台表象の変容・転移としての〈1938 年問題〉(イタリア編)」
フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ「ヴァラエティ・ショー」(1913)訳:太田岳人
フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ、エンリコ・セッティメッリ、ブルーノ・コッラ「未来派の綜合演劇(非技術的―力動的―同時的―自律的―非論理的―非現実的)(1915) 訳:太田岳人
フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ、フランチェスコ・カンジュッロ「驚愕の演劇(綜合的演劇、肉体狂気、舞台の自由語、ダイナミックで大意的な朗唱、演劇―新聞、演劇―絵画ギャラリー、楽器の即興的論議、その他)」(1921) 訳:太田岳人
フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ「綜合演劇と驚愕の演劇の後、我々は純粋要素による抽象的反心理主義的演劇と、触覚演劇を考案するだろう」(1924) 訳:太田岳人
アントン・ジュリオ・ブラガーリア「演劇についてのベニート・ムッソリーニへの手紙(1929) 訳:太田岳人
エンリコ・プランポリーニ「未来派の舞台環境」(1924) 訳:太田岳人
エンリコ・プランポリーニ「印象主義ダンスから未来派ダンスへ」(1931) 訳:太田岳人

(フランス編)
【解題】堀切克洋「トーキー以後、ブレヒト以前― 1930 年代フランスの舞台芸術環境をめぐって」
ルイ・ジュヴェ「『肉体を離脱した俳優』序文」(1943) 訳:間瀬幸江
ルイ・ジュヴェ「ジャン=ルイの記憶によせて」(1943) 訳:間瀬幸江
ジャン=ルイ・バロー「Ch.グランヴァル」(1949) 訳:間瀬幸江
ジャン=ルイ・バロー「『飢え』」(1949) 訳:間瀬幸江
ジャン=ルイ・バロー「アントナン・アルトー」(1949) 訳:堀切克洋
アントナン・アルトー「ルイ・ジュヴェへの手紙」 訳:堀切克洋
アントナン・アルトー「ジャン=ルイ・バローへの手紙」(1935-36)訳:堀切克洋
セルジュ・リファール『振付家の宣言』(1935) 訳:北原まり子

◆各国現代演劇論
(ラテンアメリカ編)
アウグスト・ボアール「民衆演劇にはいろいろな形式のものがあるが、私は、そのどれもが好きだ。」(1975)  訳:里見実

(中国編)
【解題】大野陽介「演劇の自律と自由な市場」
【解題】田村容子「『推陳出新』を論ず」
【解題】藤野真子「『講話』から“戯改”へ― 20世紀中国演劇発展の歴程への一つの視角」
【解題】松浦恆雄「新中国『禁演』五十年史略論」
【解題】三須祐介「知識人と役者のはざま」
【解題】瀬戸宏「解説・胡適『イプセン主義』」
【解題】瀬戸宏「解説・胡適『文学進化の観念と演劇改良』」
胡適「文学進化の観念と演劇改良」 訳:大江千晶

研究成果は、版権の許諾が得られない場合などを除いて、原則として特設ホームページ上にPDFファイル形式で公開してある。翻訳が必要なテクストはまだ無数に残っているが、「基盤整備」をさらに進めるためには、有志の研究者による相互的な交流と協力体制の構築によって、プロジェクトの発展的継続の可能性を模索していく必要があるだろう。そうした言語横断的な研究体制のひとつのモデルを作ったという意味で、本研究課題は一定の成果を得られたものと見なしうるだろう。