公募研究8「19~20世紀アジアの舞台娯楽における西洋演劇の影響に関する研究―日本宝塚歌劇・中国越劇・台湾歌舞劇―」

    研究代表者 細井尚子(立教大学異文化コミュニケーション学部教授)
    研究分担者 邱坤良(台北芸術大学戯劇系教授)
          中野正昭(明治大学文学部兼任講師)

 ○研究成果概要(平成25年度)
 本研究は、非西洋が西洋に倣い、吸収する中で生み出した「近代」大衆文化を演劇・芸能の中で定位し、その独自性を解明するため、近代化がもたらしたもう1つの側面-娯楽消費者の主体としての女性・子供―に注目し、近代化の下で生成され現代でも支持されている大衆文化の中で、演者・観客の主体がともに女性であり、いわゆる「女子供」のものとされてきた宝塚歌劇と中国越劇に台湾歌舞団を加え、当該社会との関係にも注目しつつ、二者間・三者間比較も加えて研究を行った。宝塚歌劇に関しては歌劇団発信の資料・情報以外の新聞紙上等に掲載された小林一三の発言などから、当初は利益獲得のための興行戦略があったことが明確となり、日本に多数あった同類形態の内、最も規模が大きく、興行の商品として誕生した松竹歌劇が「少女」性ゆえに改革の幅を自ら規定したことと合わせ、従来非営利・営利の二極に位置するととらえていた両者がありようとしては近似することが分かった。台湾は、邱氏に拠る重要な台湾の文化的特徴の指摘(台湾に伝来すると演者が女性中心に変容する等)もあり、台湾の文化環境から歌舞劇を分析する視点を得るとともに、日本の「少女歌劇」系芸態を手本として形成された代表的な歌舞劇団である拱楽社歌舞劇団、芸霞歌舞団の資料収集、関係者インタビューの蓄積が進み、両者の相違点も明確になりつつある。台湾歌舞劇関連は聞き取り調査が予想以上に順調に進み、また現地の研究者と連携し、その研究蓄積を活用できる形も整えることが出来た。中国越劇に関しては、現地に赴き新たな資料・情報を収集する機会を設けられなかったが、代表者が従来より協力関係をもつ越劇を専門的に研究するグループとの研究交流、情報交換を行い、現状の把握に務めた。台湾歌舞劇における「西洋」である日本の「少女歌劇」系芸態の受容の仕方が明確になるにつれ、中国越劇との属性上の相違も明確化しつつあり、今後韓国、沖縄を比較対象に加えることで、「非西洋」がどのように「西洋」を用いて「近代」の無形文化として自己表象を行ったのかを、具体的にしていくことが可能となった。また、日中韓三国の無形文化を対象とする研究界に存在する、西洋出自の理論・分析法による東アジア大衆文化研究に対する疑問を共有し、東アジア文化圏の大衆文化研究を行う拠点・組織を日中韓との距離感バランスが良い台湾(台北芸術大学)に設置する準備に着手した。