公募研究7「上山草人資料を活用した日米露の比較映画史研究」

    研究代表者 羽鳥隆英(早稲田大学演劇博物館助手)
    研究分担者 板倉史明(神戸大学大学院国際文化学研究科准教授)
          上田学(日本学術振興会特別研究員PD)
          碓井みちこ(関東学院大学文学部准教授)
          河村彩(日本学術振興会特別研究員PD)
          川本徹(日本学術振興会特別研究員PD)
          谷口紀枝(早稲田大学文学学術院博士課程)

 ○研究成果概要(平成25年度)
 本研究の2013年度の成果は、主に以下の①から④に分類される。①演劇博物館に伝わる上山草人遺蔵資料のデータベース化・デジタル化、関連資料の新規収集、②国際的な映画作家の諏訪敦彦氏、アメリカ映画・文化の研究がご専門の塚田幸光氏を迎えての研究集会の開催、③東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵『大忠臣蔵』(松竹『忠臣蔵 赤穂・京の巻/江戸の巻』[衣笠貞之助監督、1932年]と日活『赤垣源蔵』[池田富保監督、1938年]を再編集・統合した変則版[東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵]であり、前者の出演者である上山は敵役吉良上野介を演じる)の歴史的調査、④上山が1935年に訪ソし、映画祭に参加した折の資料(自筆覚書など)に関する調査である。
①については、上山草人資料に含まれるハリウッド期の出演契約書など、歴史的に貴重かつ劣化の危機にある資料のデータベース化・デジタル化を進める同時に、上山の伴侶で女優の山川浦路の評伝をはじめ、演劇博物館が未所蔵の資料を入手するなど、研究の基盤を整備した。②については、まず上山の評伝的テレビ番組『ハリウッドを駈けた怪優 異端の人・上山草人』(1995年)で作家的経歴の基礎を築かれた諏訪氏をお迎えし、鑑賞の機会に恵まれ難い上記番組の上映、並びに諏訪氏の講演(聞き手は羽鳥)の二部構成による研究集会を通じ、拠点事業の掲げる、制作現場と研究教育が連携する機会の開拓に貢献した。また塚田氏からは、ハリウッドと上山を巡る充実した講演のみならず、成果を出版するための有益な助言なども頂戴した。③については、羽鳥が早稲田大学内外で二度報告を実施し、日本映画と上山という問題への新たな視点を提出した。最期に④については、内田健介氏(千葉大学大学特別研究員)、斉藤慶子氏(早稲田大学文学学術院博士課程)、フィオドロワ・アナスタシア氏(日本学術振興会特別研究員DC)らロシア=ソ連に造詣の深い研究者を交え、上山のソ連旅行の意義を検討した。
このほか2013年に演劇博物館に新設された常設展示《映像》では「早稲田所縁の映画人特集」の一環で上山資料を展示し、関係者からの反響を得た。また、本研究の過程で、日本各地のフィルム・アーカイヴなどに助言・協力を仰いだ経験は、上山研究のみならず、今後の演劇博物館助手としての活動にも役立つに違いない。