公募研究5「人形浄瑠璃の現有曲目に関する資料学的研究―淡路・阿波・大阪の伝承を中心に―」
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研究代表者 神津武男(早稲田大学高等研究所招聘研究員)
研究分担者 山田智恵子(京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター教授)
久堀裕朗(大阪市立大学文学研究科准教授)
中西英夫(南あわじ市淡路人形浄瑠璃資料館館長)
松下師一(松茂町歴史民俗資料館・人形浄瑠璃芝居資料館主任学芸員)
○研究成果概要(平成25年度)
「義太夫節の曲数は、どれほど残っているのか。」 本研究課題の究極的な目標は、義太夫節の現有曲目の実数を明らかにすることにある。その前提として、今年度採択を得た範囲では現有曲目数を考究するに当たっての資料整備を行なう点に主眼を置いた。
浄瑠璃本の内、「通し本」(作品全体の本文を記す)の残る作品は、630を数える(神津武男著『浄瑠璃本史研究』参照)。これが義太夫節の作品数を考える際の大枠となるが、初演限りで再演されなかった作品も多く、伝承曲数を考えるには絞り込む必要がある。では何に拠って絞り込むか。本研究課題では、「抜き本」(一段一場の本文を抜き書きにする)の残る作品に照準を合わせた。抜き本は俗に「稽古本」と称されるなど、義太夫節伝習の教本と捉え得る資料である。また義太夫節の演奏においては「床本」(内容は抜き本に同じ。筆写本)を必携することから、逆説すると、「抜き本」「床本」の存在は、直ちに伝承曲目である/あったことの証左となる。
淡路・阿波に伝承された曲目を、当該地域に伝存する「抜き本」から想定することを目指して、南あわじ市淡路人形浄瑠璃資料館(淡路)、松茂町歴史民俗資料館(徳島)の収蔵本のリスト化を進めた。伝存本の調査と同時に、かつて出板された概数を特定して、その範囲を絞り込んだ。「外題目録」(出板目録)に記載する作品をデータベース化することにより、かつて抜き本として出板された作品を、276と数えた。竹本駒之助師への聞取調査においても当該外題目録記載作品のリストを基にお話しを伺った。
日本国内に残存する通し本は二万三千冊余であるのに対して、抜き本は数倍するものと予想するが未踏査の領域であるため、全体像の把握に至る道筋すら見定め難い。またこれまで義太夫節の現有曲目に関する調査は、技芸者への聞き取りを主として行われてきた。これら従来の接近方法とは異なる、新しいアプローチの仕方の提案と、各所蔵機関における抜き本の整理に有用な外題目録記載作品データベース(作品同定のツールとなる)を作製し得たことを本研究課題の、今年度の成果と自負するところである。