公募研究3「吉田文庫所蔵調査と吉田東伍の学問の体系的研究」

    研究代表者 江口文恵(法政大学能楽研究所兼任所員)
    研究分担者 竹本幹夫(早稲田大学文学学術院教授)
          中尾薫(大阪大学文学部講師)
          青柳有利子(日本学術振興会 特別研究員PD)

 ○研究成果概要(平成24年度)
 本研究は、本学草創期の教授で、世阿弥を発見した歴史地理学者の吉田東伍が自宅に遺した資料を悉皆調査することを目的とする。本年度は、グローバルCOEプロジェクトで行った2010年3月の調査以来、調査・研究が滞っていた、吉田文庫(新潟市秋葉区)の所蔵資料調査を2年ぶりに再開した。今年度は2012年8月、2013年1月、3月(2回)の計4回現地調査を行った。


 8月調査では主に新出の広開土王碑の拓本や奈良絵本などの貴重書の調査、写真撮影を行った。広開土王碑の拓本については、朝鮮史研究の専門家の協力を仰ぎ、事後調査もお願いしている。奈良絵本は計三種類あり、いずれも近世成立のものと思われる。現在は研究協力者の近藤弘子が調査中である。1月の調査では書籍・書類以外の資料の調査のほか、吉田東伍の生家旗野家の文書を蔵する新潟県立図書館旗野文庫の調査を行った。3月は2回に分けて調査を行い、前半調査では浄瑠璃の床本など近世の版本や東伍自筆の歴史に関する研究ノートなどを調査した。後半調査では版本の調査や写真撮影のほか、東伍らが写っている早稲田大学関係集合写真の調査を行った。写真に関しては早稲田大学にとっても貴重な資料である可能性が高く、大学史資料センターのデータベースとの照合などが必要となる。


 そのほか文庫所蔵資料の調査と平行して、日本各地に点在する吉田東伍に関連する資料の調査を各自が行う。当時の帝国大学史料編纂掛(現東京大学史料編纂所)が、大正三年(1914)に東伍から借りて写した『観世累葉履歴』(抄写本。吉田文庫には史料編纂掛からの礼状のみが現存し、編纂掛が借用した『観世累葉履歴』写本は現在見当たらず。東伍旧蔵写本の原本は恐らく観世文庫蔵本と目される)や、岡山県立記録資料館蔵吉田東伍自筆書状などの調査を行った。特に『観世累葉履歴』は、能楽史における重要な文書であるだけでなく、東伍が同書写本を入手した経緯についても、今後調査・検討の継続が必要である。残した作業、研究については、2013年度公募研究「吉田文庫所蔵資料悉皆調査と近代能楽研究史の解明」に引き継ぐ予定である。