公募研究1「「本朝話者系図」の基礎的研究」
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研究代表者 今岡謙太郎(武蔵野美術大学造形学部教授)
研究分担者 高松寿夫(早稲田大学文学学術院教授)
中川桂(二松学舎大学文学部専任講師)
金井隆典(早稲田大学政治経済学部非常勤講師)
瀧口雅仁(恵泉女学園大学人文学部非常勤講師)
○研究成果概要(平成25年度)
舌耕芸(話芸)を中心とする寄席芸の研究は、芸能研究の中でも最も立ち後れた分野である。本研究チームは、その中で貴重な同時代資料であり、これまで内容の知られてこなかった「本朝話者系図」を主な対象とし、その基礎的研究として毎月研究会を行い、資料読解・調査および注釈作業を行ってきた。
本書には計629名の落語家やその他寄席芸人が登場するが、重複する人物も多い。まずは資料内の人物を同定する作業を行う必要があり、チーム全員でこの検討作業にあたった。同一人物と思われる記述においても、異なる情報が記されていることが多く、同時期の他の系図、また番付類などを確認しつつ人物の同定を行う必要がある。検討の結果、400名ほどに人物が絞られたので、続いて注釈作業に移行した。こちらも本資料に記載されている全ての人物についての注釈をつけることを目標とし、それぞれが事前に行ってきた担当人物の注釈を毎月の研究会においてチーム全員で検討した。現在は324名までの人物の注釈作業を終えている。
こうした作業を通じて
① 第一に、『古今落語系図一覧』(国立劇場刊行)と本『本朝話者系図』との比較検討、また『日本庶民文化史料集成』等に納められた同時代の番付類との比較検討を通じて当時の寄席興行における口演形態、演目の実態をかなりの程度解明し得た。また山本進氏の教示により本書がいわば可楽代々の視点から記述された落語家の歴史である点を明らかに出来た。これにより、幕末~明治期の寄席興行の実態と特色をかなりの程度明らかにすることができた。
② 第二に、幕末期の寄席芸人、中でも上方中心に活動を行った落語家、講釈師に関して著者が直接知り得たと考えられる情報を抽出し、他の同時代資料を比較検討することによって、落語、講談を初めとした寄席芸における東西交流の諸相をかなりの程度まで解明し得た。中でも三代目(江戸三代目)桂文治の名跡の移動過程、江戸における桂派の形成についての実態と、これに関して可楽の代々が果たした役割が明確になった。これにより幕末~明治期における落語家の東西交流の実態を明らかにし得た。
といった成果があげられた。寄席芸研究の中で、これまで最も不明な点が多いとされてきた幕末期から明治初年にかけての時期について、新たな史的展望を切り開くことが出来たことは大きな成果といえよう。