テーマ研究8「伎楽面の総合的研究及び復元模刻制作」
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研究代表者 籔内佐斗司(東京藝術大学大学院美術研究科教授)
研究分担者 仲裕次郎(東京藝術大学大学院美術研究科非常勤講師)
鈴木篤(東京藝術大学大学院美術研究科教育研究助手)
白尾可奈子(東京藝術大学大学院美術研究科教育研究助手)
○研究成果概要(平成24年度)
今回の研究対象である、東京国立博物館所蔵 法隆寺献納伎楽面の呉公面は、白鳳時代の作であり、現存する伎楽面の中でも古い部類に属している。本研究では従来の写真撮影、熟覧調査に加え、3D計測の技術を用いることで、正確な形状データの取得を行い、取得したデータや分析結果、先行研究で明らかになっている製作技法を参考にしながら、復元方法を決定し実践した。
・木取り
調査時のレーザー計測で得た呉公の3Dデータを用いて図面を作成し、正確で早い作業が可能となった。今回、熟覧調査の段階で、表面を研いだような痕跡がみとめられ、とくさ等を使用して表面を研ぎ滑らかにし、漆で木地固めを行った。
・宝冠制作
3Dデータより作成した図面をもとに、当時の技法を用いて宝冠の復元制作を行った。表面は金銷による鍍金とした。
・想定復元彩色
熟覧調査の観察から、本面は、緑青彩による肌色に目と歯を銀彩、唇を鮮紅とし、濃墨で眉・髭を描く彩色意匠と思われる。手板に試験し本面に採用できるかを検討し、朱の上澄みを用いて柔らかく暈しを取り、面としての表情を深める仕様を取った。毛描きにおいては、飛鳥、天平時代の類例を参照として、眉毛・口髭・顎髭の形と筆法を考察した。
・毛貼り・宝冠取り付け
本面頭部には短い動物性の毛が数段に分けて貼付けられている。先行研究よりこの種の毛貼り、及び植毛には馬の毛を使用したと考えられ、本研究でも馬の毛を使用し毛貼りを行った。
・冠取り付け
宝冠の穴に合わせて頭部に穴を空け、を挿し込み、内側で折り曲げて固定した。
・被布
多くの伎楽面の後頭部の縁には連孔が穿たれており、当初は演者の後頭部から頸部を覆うようにして布が垂らされていたと推測出来る。しかし現存するものはなく、史料に手掛かりはあるものの、その布の形状や色等、詳細に関しては明らかにはなってはいない。本研究では、伎楽面の全容に少しでも近付けるため、被布の主要部といえる一枚布のみ復元を試みた。
・おわりに
仏像を中心とした日本彫刻史において、伎楽面を始めとする仮面に焦点が当てられる機会は少ない。しかし伎楽面の造形や構造、素材の変遷は日本仏像史と軌を一にする部分も多い。仮面造形史の研究は日本仏像史にとっても新たな知見をもたらす可能性を秘めており、今後も総合的な研究を進めることが彫刻史全体への寄与に繋がると考える。