テーマ研究7「能・昆劇の比較研究―日中伝統演劇の現在と未来」
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研究代表者 佐藤信(座・高円寺 杉並区立杉並芸術会館・芸術監督、劇作家、演出家)
研究分担者 竹本幹夫(早稲田大学文学学術院教授)
梅山いつき(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
内野儀(東京大学総合文化研究科教授)
ダニー・ユン(香港現代文化研究所代表)
川口智子(座・高円寺企画・制作)
○研究成果概要(平成24年度)
前年度年間を通して行った研究会・ワークショップの成果をふまえ、今年度は日本側日本側・中尾薫、中国側・楊慧儀を中心とする研究活動が進められ、その成果として10月にシンポジウム「能の体、昆劇の体」を開催した。
シンポジウムの中では、能と昆劇それぞれの実演家(能:鵜沢久(観世龍)、昆劇:徐思佳、楊陽(江蘇省演芸集団昆劇院)によるデモンストレーションを行い、研究者が演技法と具体的に接することにより、相互の関連性と相違を考察する基礎的な視点を得ることから始まり、それぞれの伝統演劇が持つ空間性と、その中における身体の様式性を考察した。
さらに、中尾薫、楊慧儀の両研究者より研究の成果が報告された。この研究は、能と昆劇の動態調査、およびそれぞれの技術についての考察に基づく形で進められており、今年度は特に動作がもたらす美感、物語るという演劇的側面、意味を象徴するという側面からそれぞれの伝統演劇のもつ特性について分析を行い、来年度はこれを基盤としてさらに比較研究を進めていく予定である。
また、「昆劇研究者からみた昆劇の身体、能の身体」と題して、日中双方の著名な昆劇研究者赤松紀彦(京都大学大学院教授)、傅謹(中国戯曲学院教授)による研究発表を行った。
全体討論においては現代演劇の研究者、実演家も交えながら、双方の伝統演劇のもつ「空間性」、「文学的要素」についての問題提起がなされた。昨年度・今年度に行われてきた技術ワークショップ交流、研究交流では、その「身体性」を中心に調査と比較研究を行ってきたが、来年度にむけては改めて「能」と「昆劇」という2つの伝統演劇のもつ「空間」と「テキスト(ことば)」についての新たな研究の拡がりをもって進行していくことになる。これはこの研究シンポジウム開催にあわせて発表された能と昆劇による現代演劇作品『The Spirits Play・霊戯』(演出:佐藤信/ダニー・ユン)の上演から、双方の伝統演劇を比較する上で「空間」と「テキスト」という要素に焦点をあてる必要があるということが浮かび上がった結果でもある。研究者と実演家がそれぞれの専門分野からアプローチを進め、次年度の成果としてまとめていきたい。
シンポジウム翌日の研究会においては、今日の日中の文化状況に照らし合わせ、この研究プロジェクトが来年度どのように発展していく可能性があるのか、伝統演劇をめぐる後継者育成の問題、マネジメントの問題など、この研究を通して「能」と「昆劇」の継承保存と発展に貢献できるような課題についても次年度の研究テーマとして新たに設定された。