テーマ研究6「演劇研究基盤整備:舞台芸術文献の翻訳と公開」

    研究代表者 秋葉裕一(早稲田大学理工学術院教授)
    研究分担者 藤井慎太郎(早稲田大学文学学術院教授)
          平林宣和(早稲田大学政治経済学術院准教授)
          堀切克洋(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

 ○研究成果概要(平成24年度)
 本研究課題は、日本国外で刊行された未邦訳の舞台芸術関連文献を翻訳し、ウェブ上で無償公開することを目的とするものである。2012年度は、最終年度に翻訳を行う文献の選定のための「1938年研究会」(ヨーロッパ地域において1938年前後に起こった社会的・政治的・文化的変動を領域横断的な眼差しで捉え直す試み)の定期的開催、および前年度より準備を進めてきた非ヨーロッパ地域(東南アジア、中国、ラテンアメリカ)の演劇論の翻訳・公開を行うことによって、これまでに十分な議論がなされてこなかった領域の知の共有を図ることを目標としてきた。
 まず中国演劇については、分担者の平林宣和氏の助力によって、研究協力者に多数の若手研究者を迎え、10点にものぼる重要文献の翻訳をできたことが最大の成果である。また、ラテンアメリカ演劇については前年度につづいて里見実氏の協力を得て、2011年度から通算して13点の翻訳を数えることができた。東南アジア演劇については、松井憲太郎氏の協力の下で、フィリピン、マレーシア、タイといった地域の1980年代以降の演劇論の翻訳が達成されたことも大きな成果として挙げることができるだろう。以下が公開された翻訳文献のリストである。


【中国】傅謹「“百花斉放”与“推陳出新”-20世紀50年代中国戯劇政策的重新評估」(大野陽介訳)、「論「推陳出新」」(田村容子訳)、「従『講話』到“戯改”-20世紀中国戯劇発展歴程的一種視角」(藤野真子訳)、「近五十年“禁戲”略論」(松浦恆雄訳)、「“先生”們的改革」(三須祐介訳)、張頌甲「“移歩”而不“換形”─梅蘭芳談旧劇改革」(三須祐介訳)、胡適「易卜生主義」、「文学進化観念与戯劇改良」(瀬戸宏訳)、「梅蘭芳和中国戯劇」(平林宣和訳)

【ラテンアメリカ】アタワルパ・デル・シオッポ 「わが大陸の民衆が必要とする演劇を、集団創作は培う方途となるのかもしれない」、「エンリケ・ブエナベントゥーラとのインタビュー」、サンティアゴ・ガルシア「コロンビアにおける「新しい演劇」の運動と非アリストテレス的演劇」「ケベードの壁掛けの向こうに見えてくる世界」「現代演劇における記憶と神話」(里見実訳)

【東南アジア】C.J.W.-L ウィー、リー・チーキン「壁の向こう、その先のビジョンへ――クオ・パオクン、境界線を越えて」(滝口健訳)、「ウジェーヌ・ヴァン・エルヴァン「ピープル・パワーの舞台を築く――フィリピン教育演劇協会(PETA)」(高山リサ訳) クリッシェン・ジット「近現代東南アジア演劇概論」(吉田季実子訳)、松井憲太郎「解題 アジアの現代演劇とのコラボレーション」


 次年度は「1938年研究会」の成果をふまえて、ヨーロッパ地域(ドイツ・ロシア・イタリアなど)の1930年代の未邦訳文献の翻訳に着手する予定である。