テーマ研究5「日本映画、その史的社会的諸相の研究」

    研究代表者 岩本憲児(日本大学芸術学部大学院映像芸術専攻教授)
    研究分担者 アンニ(明治学院大学言語文化研究所研究員)
          田島良一(日本大学芸術学部教授)
          古賀太(日本大学芸術学部教授)
          蔡宜静(台湾康寧大学助理教授)
          志村三代子(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
          土田環(映画専門大学大学院助教)
          中山信子(早稲田大学ジェンダー研究所客員研究員)
          渡邉大輔(日本大学芸術学部非常勤講師)

 ○研究成果概要(平成24年度)
 2012年度の研究会では、戦後すぐの漫画映画がGHGの方針とどのような関係にあったのか、日本映画はどのように国内外の社会に受け入れられたか、あるいは国境を越えて進出し、または合作の成果を得たかなどを検討した。時代は1945年から1960年代までを対象とし、第1回研究報告会は非公開で年間方針の打ち合わせを行った。

 第2回研究報告会の全体テーマ「漫画映画・合作映画・色彩映画:占領下とその後」では、分担研究者のうち、1名は漫画映画を題材に、占領期に連合国軍がもたらしたナトコ映画と、当時の国内の映画教育の運動との関わりに注目し、国内での受容過程を辿った。もう1名は、アメリカ公文書館所蔵の貴重な対日関係資料の調査に基づき、占領期アメリカの日本イメージに関する報告を行った。また、国内招聘講師1名からは日本の初期色彩映画に関して、もう1名からは1950年代日本のアニメーション言説に関して、それぞれ日本映画が抱えた固有の課題について報告がなされた。

 第3回の全体テーマ「『羅生門』以前以後」では、戦後日本映画の国際的認知の指標となった『羅生門』、その公開前後の1950年代を中心に研究報告がなされた。この時期は、敗戦を経過して第二の黄金期を迎えた日本映画が、次々と国際映画祭で高い評価を獲得し、国際進出が進んだ重要な時期である。まず、『羅生門』公開時の国内評価をめぐって再検討を行うとともに、これまで注目されることの少なかったテーマに着目して、戦後の日本―台湾、日本―中国の資料にもとづく比較映画史的な考察および、海外招聘講師からは、戦前ドイツにおける日本映画の情報について調査報告が行われた。

 第4回の全体テーマ「戦後日本映画の海外進出をめぐって」では、分担研究者によって、フランスにおける京マチ子の受容と評価、プロデューサー永田雅一の国際化戦略、川喜多長政の国際共同製作などに関して発表があり、国内1名、海外1名の招聘講師からは、それぞれ東南アジア映画祭設立期の意図と思惑について、そして冷戦期アメリカが観た日本映画界について興味深い報告がなされた。その結果、日本映画の海外進出観と、アメリカの対日映画観とが冷戦構造下、戦略的に符合した。