テーマ研究1「日本における中国古典演劇の受容と研究」
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研究代表者 岡崎由美(早稲田大学文学学術院教授)
研究分担者 平林宣和(早稲田大学政治経済学学術院准教授)
川浩二(早稲田大学文学学術院非常勤講師)
岩田和子(早稲田大学文学学術院非常勤講師)
伴俊典(早稲田大学文学学術院非常勤講師)
黄仕忠(中国中山大学中国古文献研究所所長・教授)
傅謹(中国戯曲学院教授)
○研究成果概要(平成24年度)
江戸期における中国古典演劇テキストおよび参考書として曲譜受容の実態や唐話学習の流行に乗った翻訳力のレベルの高さが明らかになった。また戯曲の受容について、物語を享受するのみならず、唐宋詩詞の受容の流れを汲む韻文文学の学習の対象として「読曲」という形で受け入れられていた可能性が高いことが見られる。また、中国古典演劇の読解に際して、どのような曲譜や辞書、参考書が参照され得たか、という受容の環境についても分析が進みつつある。これらは舞台上での実際の上演の受容とは別に、中国の古典演劇脚本の形式を研究・理解することにより、明治期の森槐南による『補春天伝奇』の創作に結実する戯曲受容の流れを示唆する。
なお、早稲田大学演劇博物館所蔵『水滸記』のテキスト校訂作業を昨年度来2年かけて行ってきたが、2012年度で校訂・編集作業が終了し、2013年度前期に解題・翻字・影印・考証からなる成果報告集を刊行する。
明治期においては、西洋近代文学研究の視点から中国古典演劇を考察する研究者らと、江戸漢学の流れを組み、鑑賞者と創作実践者の両面を併せ持つ文人的立場から中国古典演劇を受容する人々の活動の俯瞰図ができつつある。この過程での資料として、早稲田大学演劇博物館所蔵の幸田露伴旧蔵『元人雑劇百種』附上評訓訳本がある。その版本に書きこまれた訳注が幸田露伴自身のものであるかどうかは、今後解明すべき課題であるが、明治初期の中国古典演劇テキスト受容の一端を示す貴重な資料であることは間違いない。これらの成果の一端は、それぞれの分担者により、国際シンポジウムや学術刊行物などに順次発表されている。
また近代以降の京劇・昆劇の来日公演など、文字を媒介しない演劇上演活動の直接の受容については、特に1919年の梅蘭芳初来日公演に関して、『順天時報』、『申報』、『台湾日日新報』、『東京日日新報』等の新聞を軸に、東アジア各地域の同時代資料を調査することにより、その文化的動態を立体的に把握する作業を行った。結果、来日公演前後の中国側の動向や直接招聘に関わった大倉喜八郎、龍居松之助等の動きなど、公演に至る具体的なプロセスが徐々に明らかになってきた。これらの成果については、一部をすでに国外で報告、以後も順次機会を見つけて公にしていく予定である。