公募研究10「佐野碩と世界演劇」

    研究代表者 上田洋子(早稲田大学文学学術院非常勤講師)
    研究分担者 永田靖(大阪大学文学研究科教授)
          内田健介(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
          斎藤慶子(早稲田大学文学研究科博士後期課程)

 ○研究成果概要(平成24年度)
 公募研究「佐野碩と世界演劇」では、日本、ドイツ、アメリカ、フランス、ロシア、メキシコ、ベネズエラ、キューバと世界各地で演劇活動を行った演出家・演劇教育家であった佐野碩の世界的な功績とその歩みを明らかにするべく、各研究会の開催および分担者、協力者による研究調査を行った。特に協力者の星野高氏と伊藤愉氏によって、メキシコやロシアに残されている資料調査が進められたことで国外での佐野の活動について新たな発見がもたらされた。
 開催した各研究会やシンポジウムでは、日本における碩の活動を管孝行氏と藤田富士男氏、加藤哲郎氏に、ロシアでの活動を伊藤愉氏やナターロヤ・マケーロワ氏に、ドイツで広がった交友関係を萩原健氏、スペインに渡ってからの活動について田中道子氏、吉川恵美子氏、スサナ・ウェイン氏、ホビータ・アミン氏、ギエルミーナ・フェンテス氏に参加していただき、佐野碩に関して各国の研究者による包括的な研究発表とそれに基づく議論が行われ、公募研究の目的であった世界を股にかけた佐野碩の活動、佐野碩が各国の演劇に与えた影響を明らかにすることができた。しかし、佐野碩がメキシコで演出した作品や彼が行った俳優教育に関してはまだ研究が必要であり、これらの残された課題は今後も継続して研究を行っていきたい。
 また、公募研究の総括として開催したシンポジウムでは日本、ロシア、スペインの研究者により、これまで言語的な問題や地理的な問題のために見通すことが難しかった佐野碩の活動を一般聴衆にも公開でき、各国の研究者のあいだにも国際的なネットワークが構築できたことで当初掲げた目的の一つが達成された。また、本公募研究の成果を交えた演劇博物館における佐野碩展が演劇博物館助手星野高氏と大木絢子氏の協力のもとで開催され、佐野碩に対する一層の関心の高まりと、より詳しい碩の演劇活動の解明が今後継続的に進展していくことが期待される。

 本公募研究では佐野碩に関する研究以外に、演劇博物館に所蔵されている日露演劇交流に関する資料整理および研究活動を合わせて行った。具体的には、戦後の日ソの演劇交流に多大な貢献をなされた野崎韶夫氏が演劇博物館に寄贈された貴重な資料の整理を分担者の斎藤慶子氏が担当し、これまで未整理であったロシアの演劇人と交わした書簡や日記などの調査を行い、保存・公開に向けたリスト化も進められた。こうした活動以外にも、二世市川左団次がソヴィエト公演を行った際のソヴィエトの反響を明らかにするために、当時の新聞記事や雑誌に掲載された批評の翻訳を行い、200以上にのぼる記事の翻訳が完了したことも一つの成果としてあげられる。